コロナ5類移行「面会の機会確保を」 厚労省が医療機関に求める 

医療サイト朝日新聞アピタルより抜粋 2023年4月5日 17時07分

新型コロナウイルス感染症の5類移行を前に、厚労省が医療機関向けにまとめたリーフレット=

厚労省のホームページから(啓発資材 https://www.mhlw.go.jp/content/001085159.pdf )

 5月8日から新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが5類になるのを前に、厚生労働省は各医療機関に対し、「患者と面会者の交流の機会を可能な範囲で確保するよう各医療機関で検討をお願いする」とするリーフレットをまとめた。

 この3年間、全国各地で数多くの院内クラスターが発生し、面会を制限したり、医療スタッフ不足から外来や手術を制限したりする病院が相次いでいた。ただ、院内感染対策も必要なため、面会者にはマスク着用や手洗いの徹底を求め、常に換気する。対面が難しい場合でもオンライン面会ができるよう、医療機関に対応を求めていく。

 リーフレットは厚労省が医療機関向けの院内感染対策をまとめたもので、院内感染や面会の方法などを示した。

 新型コロナの患者であっても、面会者に防護具を着用してもらったうえで、対面面会ができる機会やオンライン面会ができる環境の整備を求める。

 薬の選び方も解説し、基本的には「軽症患者では、抗ウイルス薬などの特別な治療によらなくても自然に軽快することが多い」として、経過観察か解熱薬の処方で対応する。

 重症化リスクの高い人で悪化しそうな場合や、重症化リスクのない人でも発熱やのどの痛みなどが強い場合には抗ウイルス薬の投与も検討することになる。

 今後の院内感染対策としては、病棟全体をコロナ専用にすることは「基本的に不要」とし、病室単位でコロナ患者とそうでない患者に分けることが基本となる。

 また、一般の人に向けても、コロナの抗原キットをあらかじめ準備しておくことを勧めている。陽性で軽症の場合には自宅で療養し、受診する場合にはマスクの着用を求めていく。

 厚労省は、5月8日以降に新型コロナが5類に移行した後も引き続き、冬の感染拡大に先立って新型コロナを診ることができる医療機関を増やそうとしている。(後藤一也)

コロナワクチン、高齢者ら5月8日から 来年3月末まで無料接種継続 

朝日新聞アピタルより抜粋 2023年3月7日 16時00分

 新型コロナウイルスの新年度のワクチン接種について、厚生労働省は7日、65歳以上の高齢者らを対象にした接種を5月8日から始めることを決めた。全額公費負担の「臨時接種」は来年3月末まで継続し、高齢者だけでなく生後6カ月以上のすべての接種希望者が、1年間は無料で接種できる。

 同日開かれた厚労省の専門家分科会で方針が正式に了承された。ワクチン接種の目的は、発症予防よりも重症化予防に軸足が置かれる形となる。

 新年度の接種は5月からと9月からの2回。高齢者や基礎疾患があるなど重症化リスクの高い人たち、こうした人に接する機会が多い医療機関や高齢者・障害者施設などの従事者は2回接種する。それ以外の人は、5月は対象とならず、9月からの1回接種となる。

 昨年秋から接種が始まったオミクロン株対応のワクチンは、5月7日まで接種できる。同8日以降は、高齢者ら2回接種の対象者を除き、9月まではうてなくなる。厚労省はこのワクチンを未接種で希望する場合には、5月7日までに接種するよう呼びかける。

 

 また、5~11歳を対象にしたオミクロン株対応ワクチンの接種は、3月8日から始めることも決まった。中国・武漢由来の従来型ワクチンを2回以上接種した人への追加接種で使う。

 現在はすべての対象者に課されている接種の「努力義務」は5月8日以降のオミクロン株対応ワクチンについては、高齢者と基礎疾患のある人に限定して適用する。5~11歳の子どもについても3月8日以降、基礎疾患のある人にのみ適用する。

 臨時接種は3月末が期限となっていて、厚労省は延長するか検討していた。(神宮司実玲)

 

感染防ぐ効果、数カ月でなくなる?コロナワクチン、若者の秋冬接種は 

朝日新聞アピタルより抜粋 2023年3月8日 6時30分

コロナワクチン接種、こう変わる

2023年以降のコロナワクチン接種

感染予防効果は早期に失われる一方、入院を防ぐ効果は比較的長く保たれる

 この春以降の新型コロナワクチン接種について、厚生労働省は「感染による重症者を減らすこと」を第一目的に掲げた。オミクロン株が主流となって以来、ワクチンを繰り返しうっても感染や発症は十分に防げなくなった一方、重症化を避ける効果は比較的長く続くことが明らかになってきたのが大きな理由だ。

 ワクチンの効果は研究によって違いがあるが、オミクロン株が主流の時期、3回目の接種をしていた30歳以上の人の感染予防効果は、うって2~4カ月の段階で12%、それ以降ではほぼゼロになるなどとしたシンガポールの報告がある。

新年度からの新型コロナウイルスワクチン接種について、厚生労働省は65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人は年2回とする一方、それ以外の一般の人は年1回とする方針を正式に決めました。コロナ対策の中心に位置づけられてきたワクチンは、今後どうなっていくのか。ワクチンに詳しい専門家に見解を聞きました。

 

入院予防は1年後も

 これに対し、英国での調査によれば、65歳以上の人が従来型ワクチンを3回接種後、感染によって入院に至った割合は、うってから6~8カ月で54%、9~11カ月で51%、12~14カ月でも52%、うっていない人よりも低かった。

 死亡を防ぐ効果も、3回目をうって20~24週後(約5~6カ月後)に69%、25~39週後(約6~9カ月後)も63%保たれていた。重症化や死亡を防ぐような免疫の働きは、オミクロン株に対してもしばらくは続くようだ。

 米ファイザー社や米モデルナ社が開発したmRNAワクチンは、当初のウイルス株に対して90%を上回る高い発症予防効果を示した。このため、厚労省も当初は発症予防効果をワクチンの重要な役割と位置づけていた。

 

 だが、免疫をすり抜けやすいオミクロン株が主流となって以降、ワクチンによる発症予防効果は必ずしも高くなく、それも早期に下がってしまうことが分かっている。

 ワクチンに詳しい北里大の中山哲夫・特任教授は「使われ始めて2年ほどたち、mRNAワクチンの限界が見えてきた。その代表が、感染・発症予防効果の早期の減衰だ。ただ、ワクチンの大きな役割は重症化の予防であり、重症者の抑制を第一に掲げた厚労省の方針は、ワクチン本来の目的に立ち返ったと言えるのではないか」と話す。

 とはいえ、うってしばらくの間は、強力とまでは言えないまでも感染や発症を抑える効果もある程度は見込める。高齢者施設の職員など、重症化リスクのある人と頻繁に接する人を接種対象としているのは、接種によって感染の可能性を下げ、結果的に重症者を減らせるようになることを期待しているためだ。

 高齢者らへの次の接種は5月から始まり、現在と同じオミクロン株対応ワクチンを使う。9月から始まるすべての人を対象にした接種で使うワクチンは、今後検討して、23年度の早い段階で決めるとしている。

 

高齢者と同居の若い家族、この春はうてず

 高齢者や持病のある人と同居する若い人などは、春夏シーズンの接種対象とはならず、希望したとしてもうつのは事実上難しい。ただ、もしこの時期に大規模な感染拡大が起き、家族からの感染で重症者が続出するといったことが起きた場合は、今回の決定が問題視される可能性がある。

 中山さんは「これから先、どんな変異株が現れるかによって、起こり得る事態やワクチンに期待できる効果も変わってくる。変異株の状況をきめ細かく監視し、いち早く対応できるようにする重要性は変わらない」と指摘する。

 重症化リスクのない、比較的若い世代の人たちはこの秋冬、接種をどうすべきか。中山さんは「BA.4および5対応の2価ワクチンをうったことのない人には接種をすすめたい。うった人でも、そのときの感染状況などによっては接種を検討したほうがいいのではないか」と話す。

 2024年度以降の接種は、定期接種化も視野に検討し、23年中に結論を出す。定期接種となれば、自己負担が生じる可能性もある。

 コロナワクチンに関して、財務省の財政制度等審議会は昨年11月、重症化率やほかの感染症とのバランスをみながら、「定期接種」への移行を検討すべきだと指摘。財政審の資料によると、ワクチン確保や接種体制の整備など、2021年度だけで2兆3396億円かかった。

 現在はすべての対象者に課している「努力義務」は、65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人に限って適用する。努力義務は予防接種法上、接種を受けるよう努める必要があるが、義務とは異なり接種は強制ではない。厚労省は、高齢者ら重症化リスクが高い人は、まず接種の対象者となるとした一方で、重症化リスクの高くない人には接種の機会を提供する必要があるとした。(編集委員・田村建二、神宮司実玲)

 

【そもそも解説】マスク着用「個人判断」 研究論文が示す効果と限界 

医療サイト 朝日新聞アピタルより抜粋

2023年3月12日 14時00分

マスクを着用して通勤する人たち=2020年、東京都

 3月13日から、医療機関などを除き、屋内も含めてマスク着用についての推奨が撤廃されます。マスクを着ける場面と外す場面を、一人ひとりが自ら判断することが基本となります。感染症対策としてのマスクの効果について、いま分かっていることをまとめました。

 

症状なくても感染拡大

 Q なぜマスクが必要なの?

 A 新型コロナは、ウイルスを含む感染者の唾液(だえき)などを介して、人から人へとうつる。

 感染者がくしゃみやせきをすると、飛沫(ひまつ)や、さらに小さくて空気中をただようエアロゾルなどの感染性の粒子が周囲に広がる。こういった粒子の拡散を、マスクによって防ぐことが期待されている。

 自分が感染者だった場合に、自分から他人に感染させないようにするだけでなく、自分が感染しないようにする効果がある、とされている。

 Q 症状が出ていない人までマスク着用が推奨されていたのはなぜ?

 A 新型コロナの感染者は、症状があらわれる2日前の段階から、感染性の粒子を出しているとされる。また、無症状の人もいる。そのため、だれが感染者なのかがわかりにくい。

 新型コロナは新しい感染症で、当初は、ワクチンもなく、免疫を持っている人もいなかった。社会全体で感染リスクを低くするために、各国は症状がない人も含めてマスク着用を推奨していた。このような施策は「ユニバーサル・マスキング」とも呼ばれている。

 Q マスクで本当にウイルスは防げるの?

 A 完璧にではないけれど、感染性の粒子を防げることを確かめた実験がある。

 東京大医科学研究所などのチームの2020年の論文〈1〉では、2体のマネキンを50センチ離して向かい合わせに置き、一方から本物の新型コロナウイルスを含む粒子を放出できるようにした実験装置で、マスクの効果を調べている。

 ウイルス粒子を出す側のマネキンだけに不織布マスクを着けると、もう一方で検出されるウイルスの遺伝子は約60%減った。出す方はマスクを着けず、受ける方が不織布マスクを着けると50%減、両方がマスクを着けると、約75%減だった。

 

マスク効果をめぐる、さまざまな報告

 Q 実際に発症するかどうかでマスクの効果を見たものはないの?

 A いくつか報告があるけど、「効果はある」とするものもあれば、「あるとは言えない」とするものもあって、一貫していない。どんな条件で行われた研究なのかを踏まえて考える必要がある。

 デンマークで2020年4~5月に行われた研究〈2〉では、マスクを着けるように推奨されたグループと、推奨されないグループとの間で、感染リスクの差は見られなかったと報告されている。

 ただ、論文によると、同国ではマスク着用率が5%以下と一般的ではなく、同国政府も病院以外でのマスク着用は推奨していなかった。

 つまり、周囲がマスクをあまり着けていないという条件のもとでは、マスクによって自分を守る効果は十分ではない、と読み取ることができる。

 Q 地域全体で推奨した場合の報告は?

 A 大規模なものとしては、バングラデシュで20年11月から約半年間実施された研究がある〈3〉。

 600の村の計約34万人を対象にして、ある村にはマスク着用を推奨して、別の村には推奨しない、という割り当てをランダム(無作為)に行い、新型コロナの感染率に差があるかを調べた。

 推奨しない村々ではマスク着用率は1割ほどだったのが、推奨した村々では4割と高くなっていて、感染率は9.5%減ったとされた。

 ただ、この研究に関しては、推奨する村としない村に分けるときに、もともと偏りがあって、それが結果に影響しているという再解析結果も、別グループから出ている。

 Q ほかにはどんな報告がある?

 A たとえば、米国で小中学校を対象に実施された研究〈4〉がある。

 マサチューセッツ州では、学校でのマスク着用義務が22年2月に撤廃されたが、ボストンなど一部の学区では4カ月ほど着用義務が維持された。その結果、着用義務が解除された学校での感染リスクは、義務が維持された学校よりも高かった(1千人あたり約45人の増加)という。

 論文の著者らは「地域社会での感染が多い時期のユニバーサル・マスキングが、新型コロナの感染拡大や登校機会の損失を最小限に抑える重要な戦略だ」としている。

 

複数の報告 まとめてみると

 Q 良い結果が出たものだけに注目している可能性はないの?

 A 恣意(しい)的に「良いとこ取り」をしないように、複数の研究成果を一定のルールでまとめた研究もある。

 信頼性の高い医療情報の提供をめざす研究者の国際組織「コクラン」は今年1月、「呼吸器ウイルスの拡散を防ぐ物理的対策」という報告書を更新した〈5〉。いくつもの研究報告を一定のルールのもと取捨選択して、結果をまとめたものだ。

 この中で、マスクの効果は、マスクを着けなかった場合と比べても「ほとんど差がない可能性がある」とされた。

 ただし、この結果も読む時に注意が必要だ。

 まとめられたのは12本の論文だが、その研究のほとんどは16年までに行われた、インフルエンザ症状などに着目したものだ。新型コロナ流行期に行われたものは2本しか含まれていない。

 この2本は、すでに紹介した、デンマークとバングラデシュでの研究だ。

 このように、そもそもこの報告書は新型コロナに特化した分析ではなく、拡大解釈は禁物だ。

 3月10日には、コクランが公式に、報告書の結論が「マスクは効果がないことを示している」として解釈することは、「不正確で誤解を招く」とするコメントを発表。今回の結果については、「結論はでなかったと言うのが正確だろう」としている〈6〉。

 ちなみに、コクランでは、マスク着用の「望ましくない効果」についても検討していて、これまでのところ、不快感を除くと報告されているものはなかったという。

 Q コロナに特化したまとめはないの?

 A 「コクラン」の分析対象になるようなものとは研究のやり方が違うものだけど、コロナに関して調べた21本をまとめたものがある〈7〉。この論文では、マスク着用を地域社会全体で推奨した場合、感染者数や入院者数、死者数をそれぞれ減らす効果があると示唆されている。

 

「完璧な対策」ではないけど…

 Q 結局、マスクの効果についてどう考えたらいいの?

 A どんな条件で検証しても、一貫して「効果がある」といえるほど「完璧な対策」ではないものの、新型コロナの特徴を踏まえると、感染性の粒子を防いでリスクを減らすことが期待できる対策の一つだとは言えそうだ。

 手洗いなどほかの感染対策との組み合わせや、換気の状況、人の密集度などに応じて、着ける場面、外す場面を判断する必要がある。

 そのときの感染状況が落ち着いているか否かも、重要な判断のポイントになる。

 オミクロン株が広がった「第6波」以降は、重症化しにくくなったとされる一方で、感染者数が増えたこともあり、死者の総数は、それ以前よりも増えている。マスク着用に対する政府の推奨が変わっても、ウイルスがなくなるわけではなく、高齢者や、免疫のはたらきが弱い人などにとって、感染したときのリスクは高いままだということも、忘れてはならない観点だ。

 厚生労働省にコロナ対策を助言する専門家組織の西浦博・京大教授は、2月8日の会合後に、「エビデンス(科学的証拠)が示しているのは、自分の感染を防ぐための効果は限定的ですが、集団レベルで着用することで、ほかの人に感染させるリスクを下げる効果が一定レベルでありそうだということです」とし、医学の専門家としては「屋内環境でのマスク着用は推奨したい」としている。

【記事の作成にあたり、以下の論文などを参照しました】

〈1〉https://doi.org/10.1128/mSphere.00637-20

〈2〉https://doi.org/10.7326/M20-6817

〈3〉https://doi.org/10.1126/science.abi9069

〈4〉https://doi.org/10.1056/NEJMoa2211029

〈5〉https://doi.org/10.1002/14651858.CD006207.pub6

※コクラン・ジャパンによる、概要の日本語訳→https://www.cochrane.org/ja/CD006207

〈6〉https://www.cochrane.org/news/statement-physical-interventions-interrupt-or-reduce-spread-respiratory-viruses-review

〈7〉https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2021.101024

 そのほか、「マスク着用の有効性に関する科学的知見(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001055263.pdf)」。(野口憲太)

 

 

コロナ5類、外来負担はインフル同程度に 10月以降は急増の可能性 

朝日新聞デジタルより抜粋

2023年3月10日 18時59分

厚生労働省が入る合同庁舎=東京都千代田区

 政府は10日、新型コロナウイルスを「5類」に引き下げる5月8日以降の患者の医療費負担、医療提供体制について発表した。医療費は無料だった検査料などが自己負担となり、外来での患者負担は季節性インフルエンザと同程度になる。医療体制は次の感染拡大に備えながら、幅広い医療機関が対応できるように段階的な移行をめざす。

 政府の試算によると、現在の外来医療費は、3割自己負担の場合は初診料などで2590円かかる。5類移行後は、検査料や解熱剤代などが患者負担となって最大4170円に。季節性インフルの最大4450円と同程度になる。さらに10月以降は高額なコロナ治療薬(5万~25万円)も加わるなど自己負担額が急増する可能性がある。

 入院医療費も無料ではなくなるが、高額療養費制度を適用した上で、自己負担分を月に最大2万円補助する。75歳以上の半数を占める住民税課税対象で年収約383万円未満の人は、中等症となり10日間入院すれば、自己負担は3万7600円となる。

 一方、医療提供体制は、次の夏や冬に感染拡大することも念頭に、コロナに対応する医療機関を増やす。

 

 外来は、現在約4万2千カ所の発熱外来が対応しているが、季節性インフルを診ている医療機関数と同程度の約6万4千カ所への拡大をめざす。入院は現在コロナ病床をもつ約3千カ所の病院から、国内の全病院にあたる約8千カ所に増やす。高齢者は、地域包括ケア病棟や一般病棟などでの受け入れを促す。

 これまでおもに保健所が担った入院調整は、医療機関同士に任せる。都道府県には、新たな医療体制への移行計画を4月中に策定するよう求める。

 5類移行により、コロナ患者を診た医療機関への診療報酬の特例加算、専用病床を確保した医療機関への「病床確保料」は大幅に縮小する。あわせて、医師にはコロナ感染やその疑いのみを理由に診療を拒めない「応召義務」があることを周知し、外来対応を促す。これまでコロナは、感染症法上の2類感染症と同様に特定の医療機関にのみ対応を求めてきたため、医療機関によっては診療を拒む場面もあった。

 都道府県によるコロナ対応をする医療機関名の公表や受診相談センター設置、外来逼迫(ひっぱく)を避けるための低リスク者への自己検査や自宅療養の呼びかけは今後も続く。

 ホテルでの宿泊療養制度は原則廃止するが、高齢者や妊婦のための宿泊療養施設の設置は、自治体判断で9月末まで継続できる。高齢者施設に対しては、入所者や職員への検査、施設内療養などについて支援を続ける。

 患者負担の補助や病床確保料は、いずれも9月末までの期限付きで続ける。10月以降は、感染状況などをみて延長や縮小を判断する。(神宮司実玲、枝松佑樹)

 

「5類移行後」のコロナ医療費、外来は原則自己負担…治療薬は9月末まで公費継続 

2023年3月3日(金)読売新聞より抜粋

 新型コロナウイルスの感染症法上の分類引き下げに伴い、政府が検討している医療体制と公費支援の見直し案の全容が判明した。5月8日の5類移行後は、外来の医療費は原則自己負担とする。高額の治療薬のみ9月末まで公費負担を維持し、10月以降の扱いは感染状況を踏まえて検討する。高齢者施設に対しては支援を当面継続する。

 政府は見直し案について都道府県や医師会などと調整した上で、10日にも政府対策本部(本部長・岸田首相)で決定する。

 見直し案は、基本的な考え方として「限られた医療機関による特別な対応から、幅広い医療機関による自律的な通常の対応に移行する」と明記した。激変緩和の経過措置期間を経て、2024年4月に新しい医療体制に移行させるとしている。

 

 原則公費で賄われるコロナ患者の医療費窓口支払い分は、他の疾病との公平性の観点などから公費負担を縮小。厚生労働省の試算では、窓口負担が3割の70歳未満なら、現在は陽性確定前の初診料など計2590円程度が自己負担となる。5類移行後は季節性インフルエンザと同等の3710〜4170円程度となる見通しだ。治療薬の公費負担を続けるのは、自宅療養向けのものでも1回10万円近くと高額なためだ。

 入院費用は高額療養費制度の対象とし、年齢や年収に応じた限度額までが自己負担となる。9月末まではさらに最大2万円を補助する。10月以降は、感染状況を踏まえて決める。

 一方、高齢者施設は重症化リスクの高い入所者が多いことから、無料でのウイルス検査や協力医療機関の確保、施設内療養への補助金などの支援を続ける。

 医療提供体制も段階的に正常化し、外来は現在の約4万2000の発熱外来での対応から、最終的に約6万4000医療機関で対応する体制を目指す。

 入院患者は、全病院(約8200か所)での受け入れを目指す。約3000の重点医療機関などは重症患者に重点を置くこととし、それ以外で入院受け入れ経験のある約2000医療機関に軽症・中等症患者の受け入れを促す。都道府県が4月中に、入院受け入れの「移行計画」を策定する。

 自治体が担ってきた入院調整も段階的に、病院間での自主的な調整に移行することも明記した。まずは軽症・中等症患者について開始し、秋以降は重症患者についても進める。

 病原性が高い変異株が現れた場合、指定感染症に位置づけて「2類相当」に戻す選択肢も明記した。

 

コロナ5類移行、窓口負担いくらに? なぜ医療機関への補助は続く 

医療サイト 朝日新聞アピタルより抜粋

2023年3月2日 21時00分

 新型コロナウイルスが5月8日から季節性インフルエンザと同じ「5類」となった後も、政府は9月末まで患者、医療機関それぞれに特例的な支援を続ける方針だ。患者の自己負担はどれくらいになるのか。なぜ特例を続けるのか。

 コロナの外来医療費は、これまで初診料のみ患者が自己負担してきた。

 5類になれば検査料、薬の処方料、カロナールなど解熱剤代、診療報酬の特例加算分について患者が新たに負担することになる。

 9万~25万円と高額なコロナ治療薬代は引きつづき公費で負担することで、政府の試算では、自己負担は3割で最大4170円。季節性インフルエンザで外来にかかり、解熱剤とタミフルを処方された場合の自己負担額(最大4450円)に近づく。厚生労働省幹部は「インフルの負担額と同じくらいに抑えられ、国民も納得してくれるはず」とみる。

 入院医療費は現在無料だが、5類移行後、高額療養制度を適用してもなおインフルの入院費より割高になるため、月に最大2万円を補助する。

 政府の試算では、75歳以上で、住民税課税対象の年収383万円未満の中等症患者が10日間入院した場合、自己負担は3万7600円となる。

 コロナに対応する医療機関への支援も続ける方針だ。

 コロナ患者を外来で診たり入院で受け入れたりした医療機関について、診療報酬の「特例加算」の総額を現在の半分ほどに減らすものの、継続支出する。専用病床を空けて協力した場合の「病床確保料」も単価を引き下げた上で、引きつづき支払う。

 

 患者、医療機関いずれに対しても特例的な支援を続けるのは、政府が「激変緩和措置」が必要だと判断したからだ。

 5類移行後、患者の自己負担が急に高額になれば、受診が必要なのに我慢してしまう事態が起こりうる。

 医療機関の支援がなくなれば、院内の感染対策や医療者の確保に必要な費用を捻出できず、コロナ対応をやめてしまうおそれがある。日本医師会は「5類になってもコロナの感染力が変わるわけではない」と主張している。

 政府が重要視するのが5類下で迎える次の冬への備えだ。今冬の「第8波」で多くの死者が出たことから、9月末まで医療機関の支援を続けることで、コロナに対応する医療機関を増やしたい考え。外来は現在の4・2万から最大6・4万に、入院は現在の約3千から最大8千にしたいという。

 ただ、課題は先送りされるだけの面もある。

 9月末で薬代の公費負担がなくなれば、10月から自己負担が急増する可能性が高い。抗ウイルス薬ラゲブリオを現価格のまま使えば、10月以降の自己負担は最大3万2470円にのぼるとみられる。

 コロナ対応の医療機関が想定通りに増えるかも懸念材料だ。厚労省幹部は「フタを開けてみないと分からない」と認める。別の厚労省幹部も「感染状況によっては(措置の)延長が十分にあり得る」と明かす。

 厚労省は、財務省から特例加算や病床確保料をできるだけ減らすよう厳しく指示されていた。

 病床確保料の過大な支払いが会計検査院から指摘されるなど、コロナ関連の税金の使途には社会からも厳しい目が向けられており、政府は今後も難しい判断を迫られる。(神宮司実玲、市野塊、枝松佑樹)

 

“マスク外し" を喜ぶ人が知らない 

コロナ出費増 PCR検査などの自己負担が増える可能性 

2023.03.04

東洋経済オンラインより抜粋

ついに“マスクなし”の日常が戻ってくる――。政府は、現在屋内での原則着用を求めるマスクについて、3月13日から「個人の判断に委ねる」形に変更する。

 

新型コロナが感染拡大初期と比べ致死率や重症化率が低下したことを受け、新型コロナの感染症法上の位置づけが、5月8日から季節性インフルエンザなどと同等の「5類」へと移行される。マスク着用の方針変更は、それに先駆けてのことだ。

マスクなしの生活に戻ることに喜ぶ人もいる一方、感染症法上の位置づけが変わることで、感染した場合の個人の出費が増えるといった負の側面もある。

 

東京都はPCR検査の無料実施を終了予定

東京都は2月14日、2023年度の補正予算案を発表した。6月末までの補正予算として約1775億円を計上し、5類への移行を考慮したコロナ対応にかかる予算を盛り込んでいる。予算案は現在、都議会で審議されている最中だ。

その予算案によると、コロナ感染者向けに行われてきた手厚いサービスの一部は、5類への移行で終了する見込みだ。例えば濃厚接触者への抗原検査キットの無料配布や、自宅療養中の患者の家への食料品配送、街中で実施されているPCRの無料検査、宿泊療養施設の確保、発熱相談センターなどだ。これらは予算案で「5類移行までの間のみ実施する事業」とされた。

政府は5類への移行による医療費負担の変更について、詳細を3月上旬までにとりまとめる方針だ。5類になったあとも移行期間を設け、一部の公費補助を続けることを検討しているが、移行期間後は段階的に見直され、PCR検査や入院費、治療費では自己負担が生じる可能性がある。

これまで公費負担があったPCR検査の費用は、判断料を含め1万5000円以上がかかる。重症化リスクの高い人に投与され、自己負担のなかったコロナ治療薬「ラゲブリオ」は、処方期間である5日間分で約9万4000円だ。

また、全額公費で行われてきたコロナのワクチン接種は財務省の推計によると、接種支援策などを含め1回あたり約9600円とされている。これらの公費負担が、5類化に伴い見直される可能性がある。

そもそも感染症法とは、感染症の発生や蔓延を防ぐことを目的に、感染症の危険性ごとに異なる対応を定めたものだ。新型コロナは当初、感染リスクの高い結核などと同等の「2類」に位置づけられていたが、より細かな措置が必要だとして「新型インフルエンザ等感染症」という新たな分類に振り分けられた。

これに基づいて政府や自治体は、新型コロナの感染者に対する就業制限や、入院勧告を行うことができた。また、検査や入院、ワクチン接種にかかる医療費も、法律に基づき全額公費負担で行われてきた。患者を診察・入院させることができる医療機関は、適切な対策がとれる指定医療機関のみに制限されていた。

一方「5類」は、季節性インフルエンザや、水ぼうそうなどのカテゴリーだ。感染した場合の就業制限や入院勧告はない。コロナが5類に位置づけられることによって、経済活動を続けるうえでの支障がなくなるというメリットがある。

コロナ患者を診療する医療機関は増えるのか

 また、これまでコロナ患者を受け入れてきた医療機関への公費負担についても、移行期間を経た後に見直される方向だ。医療機関の収入に最も大きな影響を与えるのが、コロナ患者の病床への補助費だ。政府はコロナ患者の受け入れを促すことを目的に、コロナ患者のために確保された病床が空床の場合、その損失を補償する病床確保料を支給している。

 

感染初期には、感染患者を受け入れる病院でコロナ患者専用の病床を設けた結果、一般患者を受け入れる人的余裕や病床数が減り、結果的に収入が落ち込むといったケースが相次いだ。病床確保料はこうした事態に対応し、コロナの診療体制を整える大きな役割を担った。

コロナ患者を診察した医療機関に対し、通常よりも診療報酬が加算されるという特例措置もとられていた。クラスター対策などの費用が重くのしかかる病院にとって、これらの支援がコロナ患者を診療するインセンティブになっていた。

5類に移行することで、指定医療機関以外の医療機関もコロナ患者を診察することができ、コロナ患者を受け入れる病院が増えるのではないかと期待する声もある。しかし、現時点で、5類化によって医療機関がコロナ対策をどれだけ軽減できるかなどの指針は出ていない。感染力の高い現状では医療機関が、従来と同等の対策コストをかけることが予想される。

補助がなくなれば、病院の負担が大きくなり、コロナ患者の受け入れを躊躇する医療機関が出てくる可能性もある。

多くの民間病院が加盟する日本医療法人協会の加納繁照会長は、「感染者の動線と分離させ、医療従事者の感染予防もするなどのコストを考えると、受け入れる医療機関が大きく増えるとは考えられない。そのため高齢者など重症化リスクの高い患者の死亡数の増加も覚悟しなければならない」と言う。

新型コロナの致死率は季節性インフルエンザ並みになったものの、直近の感染拡大期では、行動制限がなかったことなどから感染者数自体が増え、基礎疾患を持つ高齢者などでの死者数が増加。今年の年明けにかけての「第8波」では、1日あたりの死者が過去最高となる500人を超えた日もあった。

一方、コロナ患者を受け入れてきた伯鳳会の古城資久理事長は、「未知の感染症だった3年前とは違い、ノウハウは蓄積できた。動線を分ければ、一般病床でもコロナ患者の受け入れは十分に対応可能だ」と話す。

ある病院関係者は5類化への移行について、「一定程度の死者が出ることは(経済活動のために)しょうがない、という考えが社会のコンセンサスになったということではないか」と見る。

 

医療体制に差が生まれる可能性も

 しかし、新型コロナの感染症法上の位置づけが変わったとしても、高齢者や基礎疾患のある人を感染リスクから守る措置は必要だ。

前述の東京都の補正予算では、今後政府の方針が継続することを念頭に、医療機関への病床確保料として予算案の約3割にあたる約510億円を計上しているほか、感染患者や濃厚接触者に対するPCR検査や医療費の患者の自己負担分についても、当面公費負担が続くことを想定した予算配分になっている。

東京都はこれまで独自に運営してきた高齢者用の臨時医療施設について、5類化後も維持したいと考え、約293億円を予算としてあてている。東京都感染症対策部の担当者は、5類化後も引き続き高齢者などの高リスク患者を守ることや、医療現場での混乱を避けるための措置が必要であるとしている。

医療機関での医療費の自己負担や病床確保料については、政府の方針によって全国一律に見直されていく。しかし、これまで自治体独自で行われてきた施策の判断については、各自治体の方針にゆだねられるため地域間での医療体制に差が生まれるという懸念もある。

 

新型コロナ、ネコと人の間で感染 獣医師が「聞いたことない」せきも

 医療サイト 朝日アピタルより抜粋

新型コロナウイルス 2023年2月23日

新型コロナウイルス感染症を発症し、診療を受けるネコ=

2021年8月、北海道中標津町、山田恭嗣獣医師提供

 新型コロナウイルスは身近な動物であるネコにも感染して、様々な症状を引き起こすことがわかってきた。

 ヒト間と同じように飼い主からのエアロゾル感染などで広がり、逆にネコからヒトに感染した報告もある。トラなどネコ科の貴重な動物に感染する恐れもあり、動物園では「ヒトからの感染対策」への理解を呼びかけている。

 「ゴホ、ゴホッと、僕も聞いたことがないようなせき。ネコは、くしゃみはよくしても、せきは珍しい。容体はかなり悪く、飛沫(ひまつ)が飛んでいたのも間違いありません」

 新型コロナを発症したネコを診療した「やまだ動物病院」(北海道中標津町)の獣医師、山田恭嗣さんはそう振り返る。

 2021年夏、6人家族のうち5人が感染した一家が飼っていた12歳のメスの診療を依頼された。家族の最初の発症から10日後にくしゃみやせきが始まり、飼い主の動画にはせきやクリーム状の鼻水に悩むネコの姿がうつっていた。

ヒト→ネコ→ヒト感染も 動物園では苦肉の策…

ネコにも感染する新型コロナ。海外ではネコから獣医師への感染も発生しました。記事後半ではトラなどネコ科の貴重な動物を守る動物園の苦肉の策を紹介します。

 

 室内飼いのネコで、家族から感染した可能性が高いことは明らかだった。飼い主から国立感染症研究所に、ネコの口の拭い液を送ってもらった結果、当時流行していたデルタ株への感染が後に確認された。

 山田さんは感染対策のために動物病院の壁や天井をシートで覆い、自身やスタッフも防護具を着用。飼い主には車に残ってもらい、ぐったりしたネコをケージごと預かって、診療にあたった。

 X線写真では軽度の気管支炎が見られたが、幸い肺炎にはなっていなかった。抗生物質や抗ウイルス薬などを投与したところ、翌日には元気を取り戻し、飼い主に感謝されたという。国内の動物で呼吸器症状が出た初症例として日本獣医師会の学術誌に報告した(https://doi.org/10.12935/jvma.75.e62)。

 「当時は今ほどウイルスの性状が明らかでなかったこともありますが、ネコの診療で、これほど感染対策が必要な人獣共通感染症は、初めてかもしれません」

 イエネコを含むネコ科は、他の動物と比べても新型コロナウイルスに感染しやすいことで知られる。

 感染研の前田健・獣医科学部長によると、人間同士が感染するときと同じように、接触感染や飛沫、より細かなしぶきによる「エアロゾル感染」などでヒトとネコ、またネコ同士の感染も起きていると考えられている。

 感染研は、コロナに感染した飼い主が療養している間、ネコやイヌを預かるボランティア事業をしていたペット保険大手の「アニコムホールディングス」とともに、動物にも感染が広がっていないかを共同で研究した。

 飼い主家族が感染した場合、飼われているネコも約15%のケースで陽性判定となり、陰性のネコと分けて預かったという。

 前田さんは「他の病気と詳しくは比べられませんが、飼い主が感染するとかなり高い確率でネコも感染することは間違いない。ヒトが呼吸器感染症になると病原体を周囲の環境にばらまくことがわかります」。

 感染したネコが屋内外を自由に出歩ける状況では、ネコからネコや、野生動物にもウイルスを運ぶ「運び屋」になってしまう恐れもある。

 日本獣医師会は20年5月の段階で、すでに「人から猫、猫から猫への感染の可能性が考えられる」として、「猫は外に放さず室内で飼育することが適正飼養の観点からも望まれます」と注意を呼びかけていた。

 タイでは、新型コロナに感染した親子と一緒に救急車で運ばれたネコがコロナに感染し、そのネコを診療中に、くしゃみをふきかけられた獣医師までコロナに感染した、との報告もある(https://doi.org/10.3201/eid2807.212605)。

 親子とネコ、獣医師が感染したウイルスの遺伝情報が一致したという。

 ヒトからネコ科の動物への感染は、絶滅危惧動物を展示する動物園でも起きている。インドでは動物園のライオンが感染して死亡。アメリカやスペインでもトラやライオンが感染している。

 「感染の恐れのあるネコ科動物との距離を取るため、バリケードで観覧制限を行っています」

 京都市動物園では、絶滅や減少が心配されているアムールトラやツシマヤマネコ、ジャガーなどを展示するおりの手前に、1メートル以上距離をとれるようコーンやバーで柵を設け、掲示板で来園者にソーシャルディスタンスを取るよう求めている。

 種の保存展示課の岡橋要さんによると、同園ではトラ舎などの網を二重にし、最短15センチの距離で来園者に見てもらえるのが魅力だった。この工夫がかえって感染対策を難しくしてしまったと頭を悩ませる。

 おりに近付けない来場者からは、不満の言葉が寄せられることもあるというが、獣医師でもある岡橋さんは「ここまで感染力が高いウイルスが出てくるとは想定していなかった。抗体を持っていないであろう新型コロナウイルスにさらされることは、私たち以上に動物たちにとっては危険なことかもしれません。感染の波が続く中、貴重な動物たちを守るバリケードを解くことができないのです」。

 感染症法上の位置づけが引き下げとなる5月以降の対応は未定という。(竹野内崇宏)

 

卒業式のマスク「外すのが基本」 方針に不安の声「抵抗ある子も」

朝日新聞デジタルより抜粋 2023年2月11日

昨年3月の卒業式でマスクをつけて歌をうたう中学3年生=大阪市内、安井健悟撮影

 「マスクを外すことを基本とする」。学校の卒業式をめぐり、永岡桂子文部科学相が10日に記者会見し、そんな方針を各地の教育委員会に通知したと発表した。保護者や教員からは歓迎や困惑など様々な声があがった。

 

 永岡文科相は会見で、換気などの感染症対策を施したうえで、式典全体を通じて児童生徒・教職員ともマスクを外すことを基本とし、歌を歌う場面では着用する、との方針を説明。来賓や保護者についてはマスク着用を求め、座席間の距離をとったうえで、参加人数は制限しない、とした。

 

文科相「外すこと強制するわけではない」

 こうした方針を示すに至った理由については、厚生労働省に助言する専門家組織が「着用しないことも考慮されうる」との見解を8日に示したことを挙げ、「卒業式は感染リスクが他の学校活動より低い」「今年卒業する子どもたちは学校生活の大半をコロナ禍のもとで過ごしてきた」ことを踏まえたと説明した。一方、基礎疾患があるなどの事情で着用を希望する子どももいるとして、学校や教職員が着脱を強いることがないよう求めた。

 ただ、今回の方針は子どもたちの間に「マスクを外さなければならない」との同調圧力を生む懸念もある。永岡文科相は指針として示したが、感染が心配な人がマスクをして出席することは誰もとがめない。(外すことを)強制するわけではないので、個人の判断でつける、つけないというのを決めていただくと強調。同調圧力が生じないような指導を学校現場に求めた。

記事の後半では、歓迎しつつも感染を恐れる保護者の思いや、対応に追われる学校の様子や養護教諭の思いを紹介しています。

 

「写真残せる」歓迎だけど…保護者の複雑な思い

 「しゃべらない場面で外せるのはいいこと」。東京都世田谷区の40代女性は文科省の方針を歓迎する。長男が公立小6年生。コロナ禍で、給食時には机に仕切りを立てた時期も。社会科見学などの行事は中止になり、宿泊行事は短縮された上、夜は布団を部屋の四隅に離して眠った。「コロナで制限の多い生活だったので、マスクを外した写真を残してあげたい」

 ただ、複雑な思いもある。女性の夫は高齢者施設で働いており、家族の感染が施設利用者に影響しかねない。「感染を避けるため、写真撮影時以外はなるべくマスクをしてほしいが、多くが外しているのにうちの子だけとなれば恥ずかしい思いをさせるかも。学校は感染を心配する家庭にも配慮してほしい」

 北海道の40代女性は、中学、高校、専門学校にいる3人の子どもが、いずれも3月、卒業式を迎える。コロナ禍でマスク生活を続けてきた子どものクラス全員が、マスクを外して笑っている顔を想像すると、涙が出そうになるという。「本来の生徒たちの素顔であり、大事な青春生活そのもののような気がする」からだ。ただ、子どもからは、顔を見せることが恥ずかしく、抵抗があると聞いた。「外すのが基本」と踏み込んだ緩和方針には少し困惑しているという。

 

「マスクにこだわりすぎ」の声も

 一方、中3の長女がいる大阪府の女性(45)は、卒業式のマスクについて国が方針を示すこと自体に疑問を抱く。「なぜ『卒業式のマスク』にそんなにこだわるのか。インフルエンザの流行もあり、コロナに関係なく、この時期の受験生はだいたいマスクをつけている」と話す。

 卒業式でのマスク着用は子どもがかわいそう、という論調にも違和感を抱いてきた。「体育の授業や部活などではマスクも外すので、クラスメートの顔を知らないわけではない。コロナ禍で子どもたちがかわいそうな場面は、他にもっとあったはず」と話す。

 卒業式の準備を進めてきた学校現場は、方針変更に頭を抱える。

 

「準備やり直し」頭抱える学校現場

 「これから卒業式の計画や準備をやり直すのは大変。こんな土壇場ではなく、なぜもっと早く通知を出さなかったのか。現場の忙しさやスケジュール感を知っていれば、この時期での発表にはならないはずだ」。都内の公立中学校の校長はそう話す。同校ではすでにマスク着用を前提とした準備を進め、各家庭にも知らせてきた。今後、保護者に方針変更を伝えることになるが、「感染を心配する保護者も多く、反発も相当数あるだろう。保護者対応をする教員の負担が気がかりだ」と心配する。

 関西地方の公立小の教頭も、「いまさら言われても、現場が板挟みになって混乱するだけ」と話す。市の教育委員会から、卒業式はほぼ昨年通りに行うという指示があったのは、昨秋のこと。各家庭の参加は2人まで、式は短縮して1時間におさめるなど、すでに計画を決めて練習に入っていた。世の中全体が、まだマスクを外すという空気になっていない中で、なぜ卒業式から始めさせるのかも疑問だ。「急に緩和を打ち出せば、どう対応しても保護者から様々な意見が届き、現場は対応に追われ、教師の負担がまた増える」

 九州地方の公立中の校長は「マスクをつけさせる時より、外させる時の方が大変で、より慎重にやらなければいけない」と話す。昨年の卒業式では卒業証書を受け取る場面や写真撮影など一部の場面で外していいと指導したが、中学生活のほとんどをマスクで口を覆って過ごしてきたため、抵抗を覚える生徒もいた。「教員が『卒業式の間は外しなさい』と指導したら、外したくない子からも保護者からも反発を受ける。みんなが外したら、外せない一部の子に、卒業式という最後の最後に傷を残すことにもなりかねない」

 

卒業式後のホームルームも心配

 福岡県の中学の教頭は「卒業式はいいけど、その後のホームルームが怖い」と話す。マスクを外しても、式典の間は子どもも静かにしているし、そもそも外す子自体少ないとみる。ただその後、各教室で担任を囲んで話したり、みんなで写真を撮ったりするのが通例だ。「写真を撮るのに教室だけマスクをしろとは言いにくい。『最後だから』とはしゃいで、後で陽性者が続出したら……」

 とはいえ、3年生はコロナ禍で入学式もなく、多くの我慢を強いられてきた。「最後の思い出づくりはさせてあげたい」。はしゃぎすぎないよう廊下でそっと目を光らせるつもりだ。

 九州地方の公立高校の教諭によると、日ごろはピンクや薄茶色などのマスクをつけている生徒もいるが、卒業式には白いマスクで色を統一するよう、生徒らへの連絡を終えたところだったという。

 マスクなしを容認する文科省の方針が現場にも示されれば、「学校は何でもそろえたがるから、こんどは『全員マスクを外すように』、となりかねない」と懸念する。それぞれの生徒たちの事情をくむことも必要だと話した。

 

緩和を前提に準備した学校「卒業式ぐらいきちんと」

 制限の緩和を前提に準備を進めてきた学校もある。都内のある公立中では、昨年は1人だった保護者の参加を今年は2人に、中2生も全員参列させ、昨年より多い曲数で不織布マスクをつけたまま歌う計画だ。校長は「現3年生は入学式も5月の連休明けに、学級ごとに分散してしか行えなかった。卒業式ぐらいはきちんとやってあげたい」。

 文科省は通知で、卒業式でのマスク着用を緩和するほか、参加人数の制限をなくした。この校長が教育的に大きな意味があると考えるのは、中2生が参加できるようになったことだ。新年度、最高学年になる意識が生まれるほか、上の学年の式を見ることで、自分たちの卒業式の計画も立てやすくなるという。

 ただ、課題もある。すでにマスクを外すよう伝えている体育や登下校でも、半数程度はマスクをつけたまま。最近あった部活動の記念写真では、外したくないという生徒が複数いて、仕方なく全員マスクをつけて撮影した部もあった。「国の思い通りには、なかなかいかない」

 

「子どもにも教員にも『外さなくていい自由』を」

 首都圏の公立小の養護教諭は「マスクを外さなくていい自由を、子どもはもちろん、教職員にもきちんと認めてほしい」と求める。いま、インフルエンザとコロナの両方の感染が重なり、毎日のように高熱の児童が保健室を訪れる。周囲の学校でも学級閉鎖が相次いでおり、特に本人やきょうだいが入試を控える家庭の子は、感染しないよう神経質になっている。

 文科省は通知で「学校や教職員がマスクの着脱を強いることのないようにする」と求めてはいるが「卒業式でマスクを外させるとなれば出席したがらない子も出るかもしれない。外したくない教員が率先して外すよう求められる恐れもある」と懸念する。

 発達障害の傾向のある子や不登校の子の中には、マスクをして顔を隠していることで、落ち着いて過ごせる子も少なくない。「卒業式かどうか、場面にかかわらず、マスクを外すことに抵抗のある人がいることは絶対に忘れて欲しくない」と話す。

 

文部科学省が示した卒業式でのマスクの取り扱い方針

● 児童生徒・教職員

<マスク不要の場面>

 入退場、式辞・祝辞、開式・閉式の辞、卒業証書授与、送辞・答辞

<マスク着用の場面>

 国歌・校歌斉唱、合唱、呼びかけ

● 保護者・来賓

 マスク着用

 座席間に触れ合わない距離を確保したうえで参加人数の制限なし

● 留意事項

 様々な事情で着用を希望する児童生徒もおり、学校や教職員が着脱を強制しないこと

 

マスク着用、3月13日から「個人判断」 学校は4月以降基本不要に

朝日新聞デジタルより抜粋

2023年2月10日 18時30分

埼玉県戸田市立戸田東小学校・中学校を視察後、報道陣への対応前に、マスクを外す岸田文雄首相

=2023年2月10日午前11時、埼玉県戸田市、代表撮影

 政府は10日に開いた新型コロナウイルス対策本部で、3月13日からマスクの着用は屋内外を問わず、基本的に個人の判断に委ねることを決めた。満員電車や医療機関の受診では当面着用を勧めるが、普段からマスク着用を求める感染対策は終わる。

 

 文部科学省は10日、学校の授業などは4月1日以降、基本的にマスク着用を求めないとする通知を各地の教育委員会に出した。3月末までは従来通りマスク着用を求める。卒業式では校歌などを歌ったり、生徒らが呼びかけをしたりするときを除いて、教職員と児童・生徒は着けないことを基本にすると明記した。基礎疾患など様々な事情でマスク着用を希望したり、健康上の理由でマスクを着けられなかったりする児童生徒もいるとして、着脱を強制しないようにすることも求めた。

 岸田文雄首相は10日、埼玉県戸田市の小学校を視察後、「今年卒業式を迎える子どもさんたちは、この3年間ずっとマスクをつけて過ごしてこられた。ぜひ卒業式ではお互いの笑顔を見ながら参加してほしい」と記者団に語った。

 

 政府は現在、他人とおおむね2メートル以上の距離が取れない場合はマスク着用を推奨し、屋内では距離が取れていても会話をする場合は着用を勧めている。このため、子どもたちは学校生活のほとんどでマスクを着けてきた。ワクチンの接種などで新型コロナの致死率が季節性インフルエンザと同程度に低下。マスク着用による子どもの発育や発達への影響も指摘される中、緩和を求める声が強まっていた。

 一方で、新型コロナは無症状や発症前で感染を自覚していない人が感染を広げやすいため、多くの人がマスクを着けることで感染の流行を抑える効果がある。感染症の専門家からは、マスクをしなくなることで重要な感染対策が失われることへの懸念も根強い。

 このため、政府がこの日改定した基本的対処方針では、飲食店や交通機関などの事業者が感染対策や事業上の理由で「利用者や従業員にマスク着用を求めることは許容される」と明記した。業界団体ごとにつくる感染対策のガイドラインも変更してもらう。準備期間に1カ月ほどかかると見込んで、ルール変更を3月13日と決めた。

 また、変更後も「基本的な感染対策は重要」として、「3密」の回避や手洗い、換気などを政府が引き続き呼びかけていくとした。「感染防止対策にマスク着用が効果的な場面」として、医療機関の受診時や、重症化リスクの高い高齢者が多くいる医療機関や高齢者施設への訪問、通勤ラッシュ時などで混雑した電車やバスの3点で着用を推奨した。混雑が想定されていない高速バスやタクシーなどは対象外とした。自身や同居家族が検査で陽性だったり、症状があったりする場合は外出を控えることも求める。

 政府の基本的対処方針分科会の尾身茂会長は「感染のリスクが高いというところは今でも変わってない。この3年間で学んできたことだ。リスクに応じたマスクの着用の判断をみんなでしたらいいというのが今回の背景にある思想だ」と強調した。

 こうした対応を記した政府の基本的対処方針は、新型コロナの感染症法上の分類が「5類」に引き下げられると廃止される。政府は5月8日に5類に引き下げる方針で、それ以降は特定の場面で政府がマスク着用を推奨することは基本的になくなる。(阿部彰芳 市野塊)

 

マスク着用の考え方

3月13日~

・「個人の判断」が基本

・医療機関への受診や訪問、高齢者施設への訪問は着用を推奨

・医療機関や高齢者施設の従業員の着用を推奨

・混雑した電車やバスの乗車時は、着用を推奨(新幹線や高速バスなどは除く)

・症状がある人、陽性者、同居家族に陽性者がいる人は外出を控える。

 外出時はマスク着用

・重症化リスクの高い人が混雑した場所へ行く時はマスク着用が効果的と周知

4月1日~

・学校での活動は原則不要

 

子どものマスク、外せない理由を考えて 小児科医が語るポイント 

医療サイト 朝日新聞アピタルより抜粋

聞き手・米田悠一郎2023年2月10日 15時00分

小児科医の川上一恵さん=2022年5月23日午後4時21分、東京都渋谷区、米田悠一郎撮影

かわかみ・かずえ 1987年、筑波大医学専門学郡卒。茨城県立子ども病院などでの研修を経て、96年に東京都渋谷区で小児科クリニックを開業。20年以上子どもと向き合う。2017年から東京都医師会理事も務める。

 新型コロナウイルスの「5類」移行に先立ち、政府は屋内でのマスク着用について「個人の判断」に委ねる方針だ。ただ、コロナ禍の3年間、マスクをつけるのが日常となるなかで、特に子どもたちが周りの目を気にして、学校などでマスクを外すことに抵抗を感じているという。その理由は? そんな子どもたちとどう向き合えばいいのか。東京都渋谷区で小児科クリニックを開く川上一恵医師に聞きました。

 

――コロナの感染症法上の位置づけが5月8日から5類に変わります。

 まず知っていただきたいのは、コロナが5類に移行しても、ウイルスはなくならないということです。

 昨年末に公表された国立感染症研究所などの調査によると、2022年1月~9月末にコロナに感染後に死亡した20歳未満は62人で、うち50人は不慮の事故による死亡を除いた内因性死亡でした。9カ月間にこれほどの子どもが亡くなる感染症は季節性インフルエンザなどほかのものでは

ありません。どんな子どもでも、症状が重くなったり亡くなったりする可能性があります。だから、できる対策として、国や日本小児科学会などはワクチン接種を推奨しています。

――マスクの議論が活発になっています。

 政府が検討しているように、いつどこでつけたり外したりするのかは、いずれは自分で考えることになります。どの場面だとしてもマスクを外せば、コロナだけでなく、3年ぶりに流行しているインフルエンザ、ノロウイルスなどほかの感染症の患者も増えることは考えられます。患者が増えれば、当然ですが一定の割合で重症者、死者が出ます。このことは大人も子どもも頭に入れておかねばならないでしょう。

 

――子どものマスクについてはどう考えればいいでしょうか。

 子ども自身が外す際のリスクを理解したうえで判断することです。どんな場面でつけるのか外すのか、家庭や学校で考える機会になると思いますので、ぜひ話し合ってみてください。

 その際に立ち止まって考えてほしいのは、周りにはマスクを外せない子どもが必ずいる、ということです。家族に医療従事者、高齢者施設の職員がいる。おじいちゃん、おばあちゃんと同居している。持病を抱えたきょうだいがいる……。こうした理由を抱える子に、外すよう強制してはなりません。

――マスクが日常になった3年間だったと思います。感染リスク以外の理由から、外すことに抵抗がある子どももいるのではないでしょうか。

 周りの目を気にしたり、意識したりし始める年齢です。どんな場面でも、マスクを外すというのはハードルが高いことです。

 実際、2009年にパンデミック宣言が出た新型インフルエンザの流行がおさまった後、私が学校医をしていたところでは、マスクを外せない子どもが1クラスに1人か2人はいました。ほかの人に自分の顔を見られるのが恥ずかしいからです。長い子では数年間、マスクがないと安心できないというのが続きました。

 

――なぜそうなるのでしょうか。

 根本には、見た目や容姿で人を判断して偏見を持つ「ルッキズム」があると思います。

 周りの大人が何げなくこんな会話をしていませんか。

 「あの人、マスクを外したらこんな顔だった」

 「意外にかっこいい、かわいい」

 「なんか残念」

 子どもたちは周りの人からそうした視線を向けられているかもしれないと考え、外せなくなるのです。でも実は、そうした会話をする人たちは、自分で勝手にその人の顔を想像し、期待したりがっかりしたりしているだけです。

 

――そうなる前にどうすればいいでしょうか。

 顔が描かれ、目元が似た絵を二つ用意します。マスクをしたときのように、鼻から下を紙で隠し、2人がどんな表情をしているか、質問してみてください。

 きっと、かっこいい、かわいい顔をしていると答えるでしょう。

 紙を取ると、一人は口を開け勇ましい表情をした顔、もう一人は口を結びこわがっているようにも見える顔でした。自分が勝手に表情や顔を想像していただけなんだと気づけるでしょう。

 相手の表情を想像しているのは自分の心なのです。

 こうした心の動きについても家庭や学校で考えないと、マスクを外した相手の容姿をからかったり、トラブルにつながったりする恐れがあると思います。(聞き手・米田悠一郎)

 

 

コロナ重症化、肺細胞から出る物質が原因か ウイルス量減った後も...

医療サイト 朝日新聞アピタルより抜粋

2023年2月10日 8時30分

 新型コロナウイルスに感染後に重症化するメカニズムの一端を、横浜市立大の研究グループがまとめた。発症後、早い段階で肺の細胞(肺胞上皮細胞)が死に、その細胞から放出される物質が重症化の引き金になっている可能性があるという。

 2020年1月~22年1月、同大付属病院に入院していた重症患者30人と、軽症・中等症患者18人について、血液や、肺の中を洗浄した液に含まれる物質を分析。その結果、急性呼吸促迫症候群(ARDS)と呼ばれる重症呼吸不全の患者では、細胞が死ぬ際に放出し、周りの組織に炎症を引き起こす物質が増えていることを確認した。

 体内のウイルス量がピークを過ぎても、こうした患者は肺の炎症や肺水腫などの症状が進行する。研究グループによると、重症患者の肺の細胞では、発症から数日の早い時期に組織が壊れる強い傷害がみられることが、過去の研究でわかっていたという。

 今回の研究では、肺の細胞が死ぬ際に炎症を引き起こす物質を放出することで、周りの組織に傷害を引き起こす悪循環が起きている可能性があることが明らかになった。

 

 この物質をマウスの肺に入れると、重度の肺の損傷が起きる一方、この物質に対する抗体をマウスに投与すると症状が軽減することも確認した。

 同大大学院の東條健太郎講師は「ウイルスによる肺の傷害は発症して早期に起きるため、抗ウイルス薬を使って防ぐことは難しい」と指摘。そのうえで、「今回の物質は早期の肺の細胞死の後に放出されるため、これを標的にすれば、より遅いタイミングでも有効な薬の開発ができるかもしれない」と話す。

 研究成果は、国際学術誌「アイサイエンス」(https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.105748)に掲載された。(足立菜摘)

 

 

新型コロナが5月に「五類」に移行 五類になると何が変わるの? 

 

朝日新聞 Reライフ.netより抜粋 2023.02.08

 新型コロナウイルスの発生から3年余りが経ちました。政府は、新型コロナウイルスの感染法上の分類を5月8日から、季節性インフルエンザと同じ「五類」に引き下げると決めました。感染者の外出自粛や医療費の負担、マスク着用、医療機関への受診など、これまでと対策が大きく変わります。どのように変化するのかをまとめました。

 

Q.1 新型コロナウイルス感染症の分類が「五類」に変わると何が変わるの? 

 法律に基づいて政府や都道府県などが取る措置が変わります。

・感染者への入院勧告や、感染者や濃厚接触者の外出制限、屋内で着用を推奨されてきたマスクの着用、感染者の把握、感染者を診療する医療機関への補助といった医療的な措置が変わります。

・緊急事態宣言などは無くなり、飲食店に対する営業時間短縮などの要請も無くなります。

・水際対策も原則的に無くなります。また、将来的には、医療費やワクチン接種が全額公費負担から、一部自己負担に変わっていく見通しです。

・感染症法上の分類の移行に先立ち、スポーツやコンサートなどにおける観客数の制限も見直されました。詳しくはQ2以下を参照して下さい。 

 

 これから5月までの期間に、新型コロナウイルスの性質や流行状況などが大きく変化した場合には、移行時期が見直される可能性はあります。政府は、移行前に専門家による会議を開き、予定通りに移行するかどうかを最終決定します。
 

Q.2 そもそも感染症法の類型とは?

 感染症を予防し、流行を抑えるために、ウイルスや細菌といった病原体を、感染の広がりやすさや症状の重症度など危険度に応じて5段階に分類したものです。一~五類まであり、一類にはもっとも危険度が高いとされている病原体が指定されています。類型に応じて、法律で可能な措置が変わります。

 一類に指定されているのはエボラ出血熱やペストなどです。二類は重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)、結核など、三類はコレラや腸チフス、赤痢などです。四類はA型・E型肝炎、日本脳炎、狂犬病などです。

新型コロナウイルスが新たに分類される五類には季節性インフルエンザやRSウイルス感染症、後天性免疫不全症候群(エイズ)、風疹、麻疹(はしか)、水痘(みずぼうそう)、手足口病などが指定されています。

 

 一類の病原体については、汚染された建物への立ち入り制限や、汚染されたと考えられる場所への交通の制限、就業制限、入院勧告、汚染された場所の消毒や汚染されたものの廃棄などが可能です。五類の病原体に対しては、これらのうちの多くの措置はとられません。

 

「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけについて」概要 

(令和5年1月2 7日 厚生科学審議会感染症部会)

1.新型コロナの感染症法上の位置づけの変更

・ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、感染症法に基づく私権制限に見合った「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれ」がある状態とは考えられないことから、新型インフルエンザ等感染症に該当しないものとし、5類感染症に位置づけるべき。

 

2.変更に当たっての留意点

・ 位置づけの変更は、私権制限を解除するものであるため、速やかに行うことが望ましいが、 変更に伴う各種対策の転換は、国民ひとりひとりの生活や、各企業や医療機関の取組、地方行政に大きな影響を及ぼすこととなるため、今後3カ月程度の準備期間を置いた上で行うべき。今後は、季節性インフルエンザにおける診療体制を念頭に、医療体制等を構築していくことを目指すが、位置づけの変更後も、影響を緩和するための期間を設け、必要な準備を進めながら段階的な移行を行うべき。

・ 今後も感染拡大が生じうることを想定して、高齢者など重症化リスクの高い者を守ることも 念頭に、必要な感染対策は講じていくべき。丁寧なリスクコミュニケーションを行いつつ、ご理解を得ながら国民、企業等での自主的な判断や取組にご協力いただくことが重要。

・ 影響を緩和するための段階的な移行については、今後政府による検討が必要であり、具体案をできるだけ早期に示していくことが必要。

・ 今後、オミクロン株とは大きく病原性が異なる変異株が出現するなど、科学的な前提が異なる状況になれば、ただちに対応を見直すべき。

(1)患者等への対応

・ 位置づけの変更後は感染症法に基づく入院等の措置は終了することになるとともに、こうした一定の行動制限に伴い行ってきた外来・入院の自己負担分の公費支援については、影響を緩 和するための措置により、段階的に移行していくべき。

(2)医療提供体制

・ 感染拡大時には、多くの患者が発生する中で、コロナ患者を受け入れる医療機関が限定されていることにより、そこに負荷がかかり逼迫することとなった。入院や外来の取扱いについては、原則として、インフルエンザなど他の疾病と同様となることから、幅広い医療機関でコロ ナ患者が受診できるよう、必要となる感染対策や準備を講じつつ段階的に移行していくべき。

(3)サーベイランス

・ 位置づけの変更後も、流行を繰り返すことが想定されることから、発生動向の正確な把握は 引き続き重要。 患者毎の届出(発生届)は終了し、患者の発生動向については定点サーベイランスに移行するとともに、変異株の発生動向についてはゲノムサーベイランスを継続するなど、重層的なサーベイランス体制を構築し、監視体制を維持する方向で検討すべき。

(4)基本的な感染対策(マスク、換気、手洗い等)

・ 引き続き、効果的な換気や手洗いなどの手指衛生の励行をお願いするべき。

・ マスクや換気等の基本的な感染対策については、行政が一律に適用すべきルールとして求めるのではなく、個人の主体的な選択を尊重すべき。 個人の判断に委ねることを基本とし、今では過剰とも言える感染対策はできる限り早期に見直しを行いつつ、新型コロナの特性を踏まえ、有効な方法について、引き続き丁寧に情報発信し、国民の理解と協力を得られるようにすべき。

・ 位置づけを変更したとしても、自主的な感染対策が不要となる訳ではない。 例えば、マスクについては、症状がある場合や家庭内に感染者がいる場合、高齢者など重症化リスクが高い者に感染を広げる可能性がある場合などには、有効であることを国民に向けて周知していくべき。 また、こうした者に該当しない場合でも、感染が大きく拡大している場合には適切なマスクの着用など、基本的な感染対策の徹底を呼びかけることを検討するべき。

・ 感染対策を実施するに当たっては、子どものすこやかな発育・発達の妨げにならないよう配慮が必要。

・ ハイリスク者を守るため、高齢者施設等における感染拡大を防ぐことができるよう、地域の支援も得つつ、感染対策に取り組むべき。

 

Q.3 これまで新型コロナはどのような類型だったの?

 発生当初は、感染症法上の二類相当と分類されていましたが、無症状の感染者も感染を広げる可能性があることなど新型コロナウイルスの性質がわかってくるにつれ、既存の類型では対応が難しくなってきました。このため、2021年2月、「新型インフルエンザ等感染症」という新たな分類になりました。 

 感染者に対する入院勧告や就業制限、外出自粛要請、健康状態の報告などを求める措置が可能になりました。 

 また、新型インフルエンザ等感染症に位置付けられたことで、感染対策以外の措置についてもふさわしい対応が必要になるとの判断から、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づき、政府や都道府県に新型コロナウイルス感染症対策本部が設置されました。そして、緊急事態宣言が出されたり、まん延防止等重点措置が取られたり、飲食店への営業時間の短縮要請が出されました。 

 五類への引き下げに伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象ではなくなるため、政府や都道府県の対策本部は廃止されます。政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」も廃止されます。

 

 

Q.4 マスク着用はどう変わるの?

 現時点では、他の人との距離が2m以上空けられない屋内や交通機関の中などではマスクの着用が推奨されています。政府は1月27日に開いた新型コロナウイルス感染症対策本部で、マスクの着用は五類への移行後は、「個人の判断にゆだねることを基本」とする方針を決めました。今後、国民に対し、マスクの着用に効果が期待できる場面などを周知していく予定です。子どもについては、マスク着用が発育や発達を妨げないよう、配慮が必要だとしています。

 

 新型コロナウイルスは、インフルエンザと同じ呼吸器感染症です。しかし、つばなどのしぶき(飛沫〈ひまつ〉)で主に感染が広がるインフルエンザとは異なり、飛沫に加えて、もっと微小なエアロゾル(マイクロ飛沫)で感染が拡大します。このため、マスクを正しく着用することによって、感染を防ぐ効果がかなりあることがわかっています。自分の周りの混雑具合、その場所における新型コロナウイルスの流行状況、自分が感染した場合に重症化するリスク、家族に感染を広げてしまった場合のリスク、マスクによって表情がわかりにくくなって意思疎通がしにくい、息苦しくなる、顔の皮膚がかぶれるといったマスクの弊害など、マスクをするプラス面とマイナス面のバランスを考え、着用するかどうか判断する必要性があります。

https://www.mhlw.go.jp/content/000942601.pdf
厚生労働省のホームページ「マスクの着用について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00001.html)から

https://www.mhlw.go.jp/content/000942602.pdf
厚生労働省のホームページ「マスクの着用について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00001.html)から

Q.5 感染の疑いがある場合の検査や診療は?

 政府は、医療体制については、五類移行後に一気に変えるのではなく、段階的に移行させるとしています。将来的には、季節性インフルエンザなど他の五類感染症と同じように、指定を受けた医療機関だけではなく、どの医療機関でも診療できるようになります。ただし、診療するかどうかは各医療機関の判断にゆだねられているので、実際にすべての医療機関が新型コロナウイルス感染症を診療するかどうかはわかりません。 

 これまでは、医療機関を受診したい場合には、自治体が指定する「発熱外来」に予約を入れて受診することになっていました。五類移行後は、発熱外来が無くなるため、季節性インフルエンザ同様、自分でどの医療機関に行くか選べるようになります。 

 入院治療が必要な感染者については、これまでは主に自治体が新型コロナウイルス感染症用に確保していた病床のある病院が受け入れていました。入院先の調整は主に保健所が担ってきました。今後は、特定の病院だけでなく幅広い病院が入院患者を受け入れられるようになります。また、入院先の調整は医療機関が調整するよう変わっていく見通しです。ただし、入院治療についても、受け入れるかどうかは各病院の判断に委ねられるため、受け入れ病院が増えるかどうかは不明です。 

 しかも、これまで新型コロナウイルス感染症の治療をする医療機関に対しては、診療報酬や病床確保料の支払いなど、金銭的な優遇措置が取られてきました。それが段階的に無くなっていくため、現状よりも新型コロナウイルスを診療する医療機関が減るのではないか、という懸念の声も出ています。

 

Q.6 感染者や濃厚接触者の外出自粛はどうなる?

 これまで原則として感染者は7日間、濃厚接触者は5日間、外出の自粛が求められていました。五類に移行すれば、外出の自粛要請は無くなります。ただし、他の感染症の場合と同様、発熱しているなど症状のある場合には、重症化や後遺症を防ぎ、周りの人に感染を広げないように、療養することが望ましいと考えられます。

自宅療養「水飲んで 酸素測って 栄養も」大阪4波教訓

朝日新聞デジタルより抜粋 過去の記事

2021年8月10日 17時00分

 大阪府や兵庫県では新型コロナウイルスの「第4波」で、自宅療養者の死亡が相次いだ。自宅療養者は全国で約4万5千人(4日時点)と、1週間前の2倍以上に急増している。自分や家族が自宅療養になったら、命を守るため何に注意すればよいのか。第4波の大阪などでの自宅療養者の死亡を受け、訪問診療のマニュアルを作った在宅医らの社団法人「日本在宅ケアアライアンス」理事長の新田國夫医師に聞いた。

 第4波の大阪では、病床が逼迫(ひっぱく)して入院が難しくなり、ピーク時で約1万5千人が自宅療養をした。保健所の連絡が滞るなどして、事実上の「自宅放置」状態で亡くなったり、病状が悪化したりする患者も出た。大阪府でも再び自宅療養者が急増し、厚生労働省によると3800人超(4日時点)と1週間前の2倍以上になっている。

 日本在宅ケアアライアンスは第4波の大阪などで自宅療養者の死亡が相次いだことを受け、コロナ患者を訪問診療するマニュアルを5月に作成し、訪問診療医らに周知を図っている。理事長の新田医師は「第4波のような『医療の空白』を絶対にうんではいけない」と強調する。

 マニュアルには「心・腎疾患がなければ1日1500ミリリットル程度の水分摂取を目標とする」「パルスオキシメーターを貸与し、1日3回以上、酸素飽和度を測定してもらう」などと盛り込んだ。

 水分について、新田医師は「新型コロナウイルスは血栓ができやすい病気のため、心臓や腎臓に疾患がなければ1日1・5リットルを目安にしっかり取ることが必要だ」とアドバイスする。

 

発熱が長引くことも多いため、解熱剤をしっかり服用して栄養をとり、体力の消耗を防ぐと良いという。

 

 新田医師はまた、「新型コロナは本人の自覚症状がないまま、悪化することもある」と指摘。このため、血液中に酸素がどれぐらいあるかを指に挟んで測る機器「パルスオキシメーター」が自治体から貸与された場合などは、1日3回を目安に測定測定時はマニキュアはとっておく。指の皮膚の上から光を当てて測定するが、マニキュアが光を反射して数値が不正確になる恐れがある。96%以上が正常値とされ、低い場合は保健所やかかりつけの訪問診療医に相談する。喫煙者は正常値にばらつきがある

 

新型コロナは発症の4~5日後に急速に悪化するケースが多く、この時期も特に注意が必要という。

 

 厚生労働省も、自宅療養中の緊急性が高い症状として、唇が紫色になっている▽胸の痛みがある▽少し動くと息苦しい▽ぼんやりしているなど13項目を公表し、該当する場合は保健所などの自治体窓口にすぐに連絡するよう求めている。

 

 さらに、自宅に家族がいれば、家庭内感染を防ぐ必要もある

新田医師によると、患者と家族の部屋を分ける▽食事は別にとる▽家の窓を開けてしっかり換気する▽風呂は患者が最後に入る▽家の中でもマスクをする、といった注意も必要という。

 

 一方、自宅療養者の命を守るには患者側の注意だけではなく、訪問診療などで医療を届ける態勢の整備も必要となる。新田医師は「現在は全国的に保健所だけで自宅療養者に対応している地域が多いが、自宅療養者の健康観察や訪問診療、オンライン診療に地元医療機関をもっと活用すべきだ」と訴える。(長富由希子)

 

 

コロナ自宅療養急増 注意点は 酸素濃度正しく測定を

産経新聞より抜粋 過去の記事

2021年8月11日 21時31分

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、自宅療養者の数が増え続けている。

 都内では7月1日時点で1006人だった自宅療養者は約1カ月後の同31日に1万人を突破。今月11日現在で1万9千人を超えた。全国でも4万5千人(4日時点)を上回っている。コロナ感染者は軽症でも容体が急変するケースがあり、とりわけ自宅療養では、患者本人や同居する家族らが重症化の前兆などを正しく理解しておく必要がある。

保健所の負担軽減のため、自宅療養者の経過観察を行う東京都の「自宅療養者フォローアップセンター」。1日あたりの経過観察件数は、4回目の緊急事態宣言が適用された先月12日は890人だったが、今月上旬には4千人近くに。4倍を上回る件数に膨れ上がっている。民間委託で保健所を補助する役割のセンターだが、感染拡大により対応が逼迫し「ピークが見えず人手が追いつかない」(担当者)。100人体制で健康観察などにあたっているが、返信が翌日以降になることも多いという。

厚生労働省によると、自宅療養は医師による感染の診断後、医療機関が管轄の保健所と患者情報を共有し、保健所が家族構成や重症化の恐れなどを検討した上で決定される。このため、感染者は保健所から電話があった場合は症状や家族構成を正確に伝える必要がある。

自宅での療養が始まると保健所などから定期的に経過観察の連絡があり、自身の体調を報告する。中でも症状を客観的に判断するために重要なのは、保健所などから配布されるパルスオキシメーターで測定した血中酸素飽和度の数値だ。日本呼吸器学会によると、標準値は96~99% とされ、90% を下回ると呼吸不全の状態となっている可能性がある

保健所の担当者は93%を下回ったら トイレに行くのも苦しくなってくる。無理をせず救急車を呼んでほしい」と呼びかける。

神奈川県の担当者はパルスオキシメーターについて「正しく使用しなければ異常値が出ることもある」と指摘。「座った状態で指を机に置き、動かさずに測定してほしい。手足が冷えている状態やむくみ、爪の変色があれば正しく測定できない場合がある」と注意を促す。

一方、厚生労働省は重症化の前兆となる緊急性の高い症状を自分でチェックできるリストを公表している。「顔色が明らかに悪い」「唇が紫色になっている」など13項目あり、1つでも該当する場合には「定期的な連絡を待たず、各自治体が設ける窓口へただちに連絡してほしい」(厚労省の担当者)としている。

このほか家庭内感染を防ぐために役立つのは、東京都がホームページ上で公開している「自宅療養者向けハンドブック」だ。感染者と部屋を分けるといった基本的な対策のほか、汚れた感染者の衣類やシーツは80度のお湯に10分以上つけてから通常の洗濯を行う▽感染者の体を拭いたり体液に触れたりする可能性がある際は、使い捨てのエプロンや大きめのごみ袋を身につける▽感染者が使用したティッシュや看護に使用したものは密閉して捨てる-など、同居人が取るべき対策も細かく列挙している。

 

 止まらぬ子どもの感染、クラスター526件「軽症でも軽視しないで」

医療サイト 朝日新聞アピタルより抜粋

新型コロナウイルス過去の記事 2022年2月2日 22時04分

 

新型コロナウイルスの「第6波」で、感染する子どもの比重が大きくなってきた子どもは流行の中心にはならないとみなされてきたが、オミクロン株では通用しなくなっている。

 新型コロナウイルス用のベッド55床を確保する河北総合病院(東京都杉並区)では、2日時点での新型コロナの入院患者がこの3週間で45人へと倍増した。

 このうち4割の18人が70代以上、11人が13歳以下。30~50代は少ない。第6波ではこれまでに見られない、年齢の「二極化」が起きているという。

 岡井隆広・副院長によると、子どもは軽症がほとんどで、「同居する祖父母への感染を心配したり、親子で感染して家に残しておけなかったりして入院する子どももいる」と話す。

 昨夏の第5波では、呼吸困難などの症状がある中等症が8割を占めた。だが、いまは8割が軽症。心臓病や腎臓病といった持病があったり、重症化リスクが高かったりする患者が入院の中心となっているという。

 一方、医療スタッフの家族の感染などで、勤務する約1200人のうち約20人が自宅待機中。コロナではない一般の入院患者がリハビリなどで転院しようとする際も、受け入れ先のスタッフ不足や感染防止策を強める施設側の意向で滞るケースが出てきた。

 岡井副院長は「感染拡大が続き、スタッフ不足が深刻になれば、一般の医療を縮小せざるを得ないかもしれない」と懸念する。

 

10歳未満が感染者の12%、10代は16%

 子どもはこれまで家庭内で感染するケースがほとんどだった。だが第6波では子ども同士、子どもからの感染も止まらない。

厚生労働省の集計によると、1月19~25日の新規感染者は前週の2・1倍の約35万人。4万3千人(12%)は10歳未満で、前週より3・3倍増えた。10代は5万5千人(16%)だった。厚労省の資料によると、学校など子ども関連の施設では1月(24日まで)にクラスターが526件起き、第5波の昨年8月を上回った。

 子どもはコロナに感染しても重症化しにくく、オミクロン株ではその傾向が強まっている。米ケース・ウェスタン・リザーブ大などの査読前の論文によると、オミクロン株に感染した5歳未満の子ども約7千人のうち、19%が救急外来を受診し、1%が入院。デルタ株では救急外来受診が27%、入院が3%だった。

 広島市内で開業する小児科医は先月下旬から、コロナに感染した子どもが連日受診するようになったという。「保育園や学校での感染が日常的になってきた。ただ、症状はインフルエンザより軽い」と話す。

 だが、オミクロン株は肺炎になりにくいが、のどの炎症は起きやすい。小さな子どもは気道が狭まり、ゼーゼーと息苦しくなったり、ミルクなどが飲めなくなったりする。頭痛、発熱、嘔吐(おうと)の症状があれば、死亡する恐れがある髄膜炎が疑われる場合もあり、区別が必要になる。

 感染症に詳しい、けいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は「これだけ多くの子どもが感染すれば、入院が必要なケースも増える。医療へのインパクトがあらわれるとすれば、これからだ。国内では、子ども向けの経口薬がなく、5~11歳のワクチン接種も3月以降。『症状が軽いから感染してもいい』と軽視するべきではない」と指摘する。

 国内で最も早くオミクロン株が流行した沖縄県では、1月中旬に感染ピークを過ぎた。先駆けて増えた20代が大幅に減ったことが大きいが、その後に増えた高齢者や子どもの減り方は鈍い。直近では10歳未満が年代別で最多だ。

 全国的にも今後、高齢者施設などでのクラスターの多発や、コロナ以外も含めた医療全体の逼迫(ひっぱく)に警戒が必要だ。

 ただ、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言の措置は、感染対策の「急所」とされた飲食店が主。活動的な若い世代の感染拡大に歯止めをかける効果は期待できても、あらゆる年代に広がるオミクロン株にどこまで効くかは疑問符がつく。全国知事会は1日、対策の重点を飲食店から学校や保育所に転換するよう岸田文雄首相に求めた。

 政府対策分科会の尾身茂会長は1日の衆院予算委員会で、仮に緊急事態宣言を出すなら、「オミクロン株の特徴に合わせた効果的な対策」と「人々の権利や社会経済活動の制限を含めて、社会的なコンセンサスが必要」だとした。だが具体策は打ち出せていない。(阿部彰芳、林義則)

 

 保育所で2歳以上の子どもにマスク 厚労相が推奨に前向き 

医療サイト 朝日新聞アピタルより抜粋

新型コロナウイルス過去の記事 2022年2月4日 17時15分

閣議後会見で話す後藤茂之厚生労働相=2022年2月4日午前9時48分、

東京・霞が関の厚生労働省、下司佳代子撮影

 保育所での新型コロナウイルス対策について、後藤茂之厚生労働相は4日の閣議後会見で、「子どものマスク着用も前向きに進めていくべきだ」と述べた。子どもへの感染が広がっていることから、全国知事会が3日、2歳以上の保育園児のマスク着用の必要性を訴えていた。

 後藤氏は、子どもがマスクをつけたがらないことや、相手の表情が見えにくいため「(子どもの)人格形成上もハンディキャップになる」との指摘もあるとし、子どものマスク着用は「あまり強く勧めていなかったのは事実」と説明。しかし、オミクロン株の流行で子どもに感染が広がり、「次の感染が広がる起点にもなりかねない」としてマスク着用を勧める方向で議論していると明かした。

 子どものマスク着用は、日本小児科医会が2歳未満の子どもに、窒息や熱中症のリスクがあるとして推奨していない。今回は2歳以上を念頭にしたとみられるが、安全と感染対策の両立が求められる。

 また、後藤氏は、新型コロナウイルスの軽症患者向けの飲み薬「モルヌピラビル」について、計9万人分の納入を前倒しすると明らかにした。4日に5万人、10日に4万人分を納入し、昨年末からの合計で34万人が使えるようになるという。医療現場では供給不足が課題に挙がっていた。(市野塊)

 

 

 学校での合唱、演奏、調理実習を自粛要請へ コロナ対策で文科相意向 

医療サイト 朝日新聞アピタルより抜粋

新型コロナウイルス過去の記事 2022年2月4日 15時35分

末松信介文部科学相=2022年1月

 末松信介文部科学相は4日、首相官邸で記者団に、新型コロナウイルスの感染対策として、学校での合唱や管楽器の演奏、調理実習などの教育活動を控えるよう都道府県に通知する意向を示した。人と接触の多い部活動も同様に控えるよう求めるという。

 末松氏は同日、岸田文雄首相と面会。若い世代でオミクロン株の感染が拡大しているとして、学校での感染症対策の強化策を説明し、了解を得たという。

 面会後、末松氏は記者団に、「学校における、特に感染リスクの高い教育活動は、感染レベルにとらわれず基本的に控えていただきたい」と説明。「例えば、合唱とか、管楽器の演奏とか、調理実習。それと部活動では密集する活動。近距離で組み合ったり、接触をしたりする場面があるといった運動。大きな声とか、あるいは激しい呼気を伴う活動については控えていただきたい」と語った。

 

 同居する家族の待機、7日に短縮 自宅に長期待機の保護者急増で 

新型コロナウイルス過去の記事

2022年2月2日 21時23分

 新型コロナウイルスの感染者の同居家族が看病などで感染者と接触せざるを得ず、濃厚接触者として待機期間が長期に及んでいる問題をうけ、厚生労働省は2日、同居家族の待機期間を短縮すると発表した。家でもマスクを着けるなど感染対策をして看病し、自身が発症しなければ、7日間で解除される。

 これまで、仮に子どもが感染すれば10日間の療養が必要となり、看病して濃厚接触者となった親は、子どもの療養が終わった翌日から7日間の待機を求められ、実質17日間は仕事などで外出できなかった。家族が順に感染すれば、さらに長引く場合もあった。

 後藤茂之厚労相はこの日、記者団に対し、「特に子どもの感染者が増えて自宅待機を余儀なくされる保護者が急増している。社会経済活動の維持を図るため、同居家族の待機期間を見直した」と述べた。

 

 新たな方針では、感染者と同居家族が飲食、入浴などで常に接触がある家庭を想定。そのうえで、感染者が発症した日、もしくは家庭内でマスク着用や手指消毒の感染対策を始めた日のいずれか遅い方の翌日から、同居家族が感染者を看病しつつも発症しなければ7日間で待機期間を解除できる。ただ、待機終了後も、感染者の療養が終わるまでは検温などで自身の健康管理をするよう求めている。

 今回は新たな科学的知見をうけた措置。国立感染症研究所の分析により、感染者が発症して7日経った後に濃厚接触者が発症するのは極めてまれだとわかったという。(枝松佑樹)

 

 

「受診しなくてもいい」コロナ方針転換 発症したらどうすれば?

新型コロナウイルス過去の記事

枝松佑樹2022年1月26日 6時00分

デンカの新型コロナウイルスの簡易抗原検査キット=同社提供

 検査の逼迫(ひっぱく)や発熱外来のさらなる混雑対策として、厚生労働省は、若くて低リスクの人は必ずしも受診しなくてよい、という道をもうけた。これまでは、発症すれば原則、専用の発熱外来を受診し、検査した上で医師が感染の有無を診断。連絡をうけた保健所が、入院もしくは自宅や宿泊施設での療養を指示してきた。すべての感染者に手厚い対応を取ってきたやり方から転換した。

 

 主眼は、感染者が多い若年層に自分で検査してもらうことにある。陰性なら受診人数を減らすことができ、陽性で受診したとしても医療機関による検査を減らせる。ただ希望すれば誰でも自分で検査を受けずに受診できる。後藤茂之厚労相は24日、記者団に「病院に行くことを否定しているわけではない」と語った。

 厚労省は検査、受診の方法を外来の逼迫度によって2段階に分ける。段階は自治体が決める。その上で「40歳未満で基礎疾患がなくワクチン2回接種済み」の人を重症化リスクが低いとみなして対応する。

 発症した場合の検査や受診行動はどう変わるのか。まず外来が逼迫する手前の段階では、低リスク者は抗原定性検査キットで自ら検査し、陽性だったら受診する。高リスク者は従来通り受診して検査を受ける。一方、同居家族が感染して濃厚接触者となり、発症した人は感染の可能性がきわめて高い。このため、臨床症状だけで医師が感染したと診断できるようになる。

 

 さらに感染拡大し、外来の逼迫が想定される場合はどうなるのか。高リスク者は引き続きこれまで通り受診することになる。一方、低リスク者で軽症なら、受診せずにまず自ら検査する。陽性だったら自ら、自治体の「健康フォローアップセンター」に連絡する。センターには医師がおり、検査結果をもとに、感染症法上の届け出をする。センターから健康観察を受け、「受診不要」と判断されればそのまま自宅で療養することになる。

 ただ、課題も残る。自分で検査するためのキットは、需要の急増で地域によってはすでに不足している。それに拍車をかけかねない。厚労省は自治体に、キット配布の窓口を設けることなどを求めているが、必要な人に必要なときに届けられるかは不透明だ。受診しないことで患者の重症化する兆候が見落とされるリスクもある。(枝松佑樹)

 

中等症、医師「人生で一番苦しい」 一般認識とギャップ

朝日新聞アピタルより抜粋 過去の記事

2021年8月5日 17時30分

 

 軽症は「かぜ」、中等症は「息苦しさは出そう」、重症なら「入院は必要だろう」。新型コロナウイルス感染症の症状に、こんなイメージを抱いていないだろうか。だが、実際にはこんなに甘くない。それを端的に描いた一枚のスライドが反響を呼んでいる。スライドをつくった米ジョージタウン大学内科助教の安川康介さんに作成の意図を聞いた。

  コロナの病状について、一般の人と医者との認識のギャップを描いた安川康介さんのスライド

 

――このスライドをなぜつくろうと思ったのですか。

 重症者や死者の人数は毎日のように報道されますが、中等症は、数字として見えづらい。でも、30~40代の感染者ではそれなりの割合になり、病状もつらい。私も肺炎になって苦しんでいる30~40代の患者さんをたくさん診てきました。

 このあたりが、一般の人に正確に理解されていないのではないかと思いました。

 新型コロナウイルスの正確な情報を届ける「こびナビ(CoV-Navi)」という団体で、幹事をしています。そこで、「日本では重症者が少ないから、ワクチンはいらないんじゃないか」というコメントをいただきます。

 東京都の重症者は4日時点で115人と報道されています。人口規模から考えたら、確かに、たいしたことはなさそうですよね。

 でも、東京都の重症者の基準は、米国では重症より重い「重篤(クリティカル)」にあてはまります。

 米国の重症に近いのは、日本でいう「中等症2」です。

「ワクチンの重症化を防ぐ効果」という際の「重症」も、日本の「中等症2」と「重症」を含めたものに近い定義です。

 

  中等症2 は、血中の酸素飽和度が93%以下になり、酸素投与が必要です

それより軽い「 中等症1 」は、酸素飽和度が96%未満で、肺炎があり、つらい状態です

 

健康な人の酸素飽和度はだいたい96%以上です。

――7月20日にツイートし、10日間で1400万超の人が目にしました。

 みなさんが知っていることなら、これだけの反響はないと思います。

 ただ、反響があったこと自体に問題意識を持ちました。新型コロナと1年半以上つきあってきて、医者にとって当たり前のことが、伝わっていなかったわけですから。

 

――想定外でしたか。

 スライドは数十分ほどでつくりましたが、こんなに反響があるとは思いませんでした。

 

苦しさがなくても要注意

――医者がイメージする中等症は「人工呼吸器はいらない・肺炎は広がっている・多くの人にとって人生で一番苦しい」と書いています。

 新型コロナでは、せき、発熱だけでなく、嘔吐(おうと)や下痢などの消化器症状、味覚障害、嗅覚(きゅうかく)障害など、色々な症状があります。しかも、インフルエンザなどと比べ、長く続くことが多い。

 症状が苦しい、重いというだけでなく、それが続くということがあるので、そう書きました。

 ただ、問題があります。

 血中の酸素飽和度が下がっているのに苦しさを感じない「サイレント・ハイポキシア(サイレント低酸素血症)」の人もいます。苦しくはなくても、放っておけば、亡くなってしまいます。

 症状ばかりに焦点が当たると、このことが抜け落ちてしまい、伝え方は難しいと感じています。

 サイレント・ハイポキシアは、パルスオキシメーターで、酸素飽和度を測らないとわかりません。酸素飽和度が下がっていたことに気付かず、亡くなった人もいると思います。

 基本的に酸素飽和度は90%以上ないと、重要な臓器に酸素が十分届きません。90%以下が続けば、亡くなってしまう危険があります。

 さらに、新型コロナは、症状の進みが速いことがあり、いつどうなるかわからない不安がある厄介な病気です。いま中等症でも、次の日には、肺炎が進んで重症になっていることがあります。

 

中等症2 40~50代で1割

――感染した人のうちのどのくらいが、中等症になるのでしょうか。

 全国データはないようですが、大分県では、中等症2以上になった30代は25人に1人、40代、50代では10人に1人です。

 高知県でも、30代で中等症4%、40代で中等症11%、重症1%という、だいたい同じようなデータがでています。

 

――和歌山県のデータをみると、春に変異株(アルファ株)に感染し、肺炎になった人は20代で28%、30代で47%でした。かなり高いと感じました。

 新型コロナは、すごく肺炎を起こしやすい。ある程度、息苦しさがある人では、CTを撮れば、だいたい肺炎があると思います。

 もちろん、肺炎になっても、せきがでるぐらいですむ人もいます。一方で、肺炎にならず、本当に無症状ですむ人もいます。全員が全員、苦しくなるというわけではありません。

 ただ、「自分は大丈夫」と思っていても、つらい軽症、かなり苦しい中等症になる人は、確実にいます。この点を伝えていかないといけないと思います。

 中等症になった俳優の石井正則さんがコロナの中等症になった体験をユーチューブで詳細に話しています(https://youtu.be/aAP2WiugZvk)。とても参考になると思います。

 

――ただ、数で見れば、無症状やかぜのような症状ですむ人は多いわけですね。

 そうした人から感染が広がる可能性がある点が、本当に怖いところです。ここまで感染が広がっている理由の一つでもあります。そして自分は軽い症状で済んだとしても、うつしてしまった相手が亡くなってしまうこともあります。

 また、症状が多彩であることが、医療現場では悩ましいところです。米国で感染者が多かったとき、下痢だけで受診した人が検査をしたらコロナ陽性、せきが全くないけれども脳梗塞(こうそく)で運ばれてきた人がコロナ陽性、血栓ができて検査したらコロナ陽性ということがありました。

 

基本的な感染対策の徹底を

――日本では、東京を中心にかつてないペースで感染者が増えています。現状をどう見ていますか。

 検査の陽性率が東京では20%に達し、検査で捉え切れていない感染者がかなりいると思います。感染者の数だけでなく、年齢層、陽性率などを見て、全体を考える必要があります。

 このまま増え、入院できない人が出てくると、年代が若くても亡くなる人は増えてきます。

 ただ、幸いなことに高齢者では、ワクチン接種が進んでいます。今はワクチン接種をできる限り進め、一人ひとりができる基本的な感染対策を徹底するしかありません。

 

マスク、手洗い、3密回避。少しでも症状があったら外出しない。

 すごく不安になると思いますが、基本的な感染予防対策で、確実に効果はでてくると思います。(聞き手・阿部彰芳)

入院制限、広がる波紋 都内の自宅療養者はすでに最多

朝日新聞アピタルより抜粋

2021年8月4日 21時00分

 政府が打ち出した新型コロナウイルス感染者の急増地域での「入院制限」の新方針をめぐり、波紋が広がっている。国会では批判が相次ぎ、与党議員からも撤回を求める声が上がった。自治体も対応に追われている。

 4日午後、自民党本部で開かれた新型コロナウイルス感染症対策本部とワクチン対策プロジェクトチーム(PT)の合同会議。

 「聞いていない!」。出席議員からは政府の新方針への不満が噴き出し、撤回を求めることが決まった。

 会合後、ワクチンPTの古川俊治事務局長は「(方針を)出すまで一切党の方にも相談はなかった。自治体、医師会にも全く相談なく、官邸で決めたことだ」と批判。「大きな間違いで混乱を招いた。政調会長から撤回を申し入れる」と記者団に語った。

 この日は午前の衆院厚生労働委員会で開かれた閉会中審査でも、公明党の高木美智代氏が「酸素吸入が必要な中等症の患者を自宅でみることはありえない。撤回も含めて検討していただきたい」と田村憲久厚生労働相に迫った。

 

都の幹部「いまの体制ではフォローできない」

 田村氏は「中等症もいろんな方がいる。呼吸管理されている方が入院しない、自宅に戻すということはありえない」と説明。別の質問者にも「医療資源は短期間に急に増えない。緊急事態に入りつつあるなか、先手先手を打って対応している」と理解を求めた。

 厚労委では、感染拡大に歯止めがかからないなか、政府のコロナ対応が後手に回ってきたことへの批判も相次いだ。

 知っ健民主党の長妻昭氏は、デルタ株の感染力の強さは以前からわかっていたとして、「人災だ」と批判。「まず、国民の皆さんに対する謝罪から始めるべきだったのではないか」と田村氏に迫った。

 政府の新方針について、政府対策分科会の尾身茂会長は厚労委で問われ、「政府とは毎日いろんなことで協議しているが、この件に関してはとくに相談、議論をしたことはない」と答弁した。

 その上で、尾身氏は「入院か在宅か、という議論になりつつあるが、今の感染状況の中で国民のニーズに応えるためには一本足打法は駄目だ」と苦言を呈した。病院だけでなく、開業医や訪問看護など地域全体の医療体制を強化することや、宿泊療養施設の強化などを挙げ、「総合的にやることが必要だ」と訴えた。(吉川真布、笹井継夫)

 

「在宅で酸素吸入ありえる」 コロナ入院制限で厚労相

朝日新聞デジタルより抜粋

2021年8月3日 15時51分

 田村憲久厚生労働相は3日の閣議後会見で、新型コロナウイルスの感染拡大地域で入院できるのは重症者や重症化するリスクの高い患者に限定するとの政府方針について、中等症でも「比較的(症状が)軽い方は在宅(療養)をお願いしていく」と説明し、「場合によっては在宅で酸素吸入することもありえる」との認識を示した。

 政府は2日、これまで入院の対象だった中等症と軽症の患者について、重症になるリスクが高い場合をのぞき、原則として自宅療養とするとの方針を発表した。

 

 方針を見直した理由について田村氏は、感染力がより強いとされるデルタ株への置き換わりで感染状況の「フェーズが変わった」と説明。急速な感染拡大で病床ひっぱくが懸念される中、病床の「余力を持つ(ための)対応をしていかなければならない」とし、「症状が軽く、リスクがそれほど高くないという方は、在宅も含めて対応せざるを得ない」と述べ、理解を求めた。

 感染が急拡大した都市部では、自宅療養中に容体が急変しても、入院に向けた対応に遅れが出る例が相次いだ。田村氏は今後、自宅療養中の患者の健康観察を強化するため、自治体が運営する保健所の人員増強のほか、健康観察の入力業務などの民間企業への委託を支援していく考えも示した。

 全国知事会がロックダウン(都市封鎖)のような強い措置の検討を求めている点については、田村氏は「今般の感染拡大という意味では法律をつくる対応は間に合わない」としつつ、今後の感染症対応を想定して「時間がかかってでも国会で議論していただく話だろう」と語った。(石川友恵)

 

 

政府の方針急転、命に直結する問題 自宅療養どこまで

朝日新聞アピタルより抜粋

2021年8月4日 6時00分

 政府は新型コロナウイルス患者の「入院制限」を打ち出した。インドで見つかった変異株(デルタ株)の猛威で医療が逼迫(ひっぱく)するためだが、一部の中等症患者も自宅療養としており、方針転換といえる。容体の急変に十分な対応ができるのか。与野党や医療現場から懸念の声が相次いだ。

 「必要なのは、重症化された方々が入院できる病床を常に確保しておくことだ」。田村憲久厚生労働相は3日の閣議後会見で、入院制限の必要性を訴えた。欧米でも感染拡大期は「病床は全然足りなくなり、在宅中心になる」と述べた。

 東京都を中心に医療の状況は深刻だ。都内の入院患者数はすでに3351人(3日時点)まで増え、過去最多だった1月12日の3427人に迫りつつある。都で感染拡大時に最大で確保できる病床6406床に対する病床の使用率は2日時点で50%と、最も深刻な「ステージ4」(感染爆発段階)に達した。

 一方で、新規感染者数(1週間平均)は3337人(3日時点)と過去最多を更新し続けており、入院者数が急増する懸念が生じている。全体の療養者数も2万7千人を超え、自宅療養者数は1万千人を上回っていた

 政府高官は「このまま感染拡大が続けば、病床が確保できなくなる」と懸念。厚労省幹部は、「今までは感染制御という目的があったけれど、命を救うための入院に変えた」という。神奈川県は昨年12月に「入院優先度判断スコア」を導入しており、そうした事例も参考にした。別の幹部は重症者らに入院を特化することを「インフルエンザと同じ対応をするということ」と説明する。

 

具体的な線引きは都道府県任せ

 これまで軽症者は原則、宿泊療養としてきた。だが、過去の感染拡大期に軽症患者が入院し、重症患者が入院できなかったケースもあり、そうしたことを防ぐ狙いもある。ワクチン接種が進んで重症化する高齢者が減り、相対的に中等症の患者が増えてきたことも、判断の背景にある。都幹部からは「重症化しやすい高齢者の感染が急減した一方、感染者数が高止まりする現状を考えれば、自宅療養をさらに活用することを考えるべきだ」との意見も出ていた。政府と都は水面下で調整してきた。

 しかし、従来は入院対象だった中等症の一部患者も自宅療養を基本とすることには、大きな懸念がある。朝日新聞の調べでは、今春の「第4波」で緊急事態宣言が出た10都道府県で、少なくとも51人が自宅や宿泊療養施設で亡くなった

政府はオンライン診療を推進し、血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターを配ることなどで健康観察を強化するとしているが、患者の急変に十分な対応ができないと「命」に直結する問題となる。

 政府は入院できるのは「重症患者や重症化リスクの高い患者」と限定したが、中等症や軽症患者の入院の具体的な線引きは都道府県任せだ。地域によって医療資源も異なるためで、東京都はすでに指標づくりに入っているという。ただ、指標があいまいだと入院を判断する保健所や医療機関の負担は増す。

 与野党からは注文がついた。3日昼、公明党の山口那津男代表は菅義偉首相と面会して「中等症の方々についても対応できる病床を増やすことも含めて、丁寧な対応をお願いしたい」と要請。立憲民主党の枝野幸男代表は「自宅療養というのは言葉だけで、『自宅放棄』としか言いようがない」と切り捨てた。(永田大、田伏潤、池上桃子)

 

医師「客観的な判断できるか心配だ」

 政府の方針転換を現場の医師らはどうみるか。

 軽症から中等症の新型コロナ患者を受け入れる東京曳舟病院(墨田区)の三浦邦久副院長は「これだけ患者が増えてくればやむを得ない措置だ」と話す。一方で、「入院判断は呼吸苦など、患者本人の申告に頼っている面もあり、客観的な判断をできるのか心配だ」とも訴える。

 新型コロナの重症度は、厚生労働省の「診療の手引き」によると軽症、中等症Ⅰ、中等症Ⅱ、重症の四つに分類される。

 

 軽症 は、呼吸困難や肺炎はないが、急速に症状が進行することもある。

 

  中等症Ⅰ は、血中酸素飽和度(血液中の酸素の量)が93%超~96%未満で、呼吸困難や肺炎がある「入院のうえで慎重に観察。患者の不安に対処することも重要」と記述されている。

また、酸素飽和度が下がっても患者が苦しさを訴えないことがあるので、注意が必要だ。

 

 酸素吸入が必要になる中等症Ⅱ は、血中酸素飽和度が93%以下

1~2分息を止めた後の苦しい状態が続くようなものという。

保健所にも「呼吸が苦しい」という訴えが相次ぐ。

 

 東京都北区保健所の前田秀雄所長は「新型コロナ感染症の特徴は、いつ重症化するかわからないこと。それなのに、中等症患者の自宅療養のフォローまで保健所の負荷になるのは、とても耐えられない」と話す。

 

保健所長、中等症の人が「置き去り」

 都内の自宅療養者は、3日時点で1万4千人を超えた。方針転換により、さらなる増加が見込まれる。

 北区保健所では、その日に発生届があった100人前後の陽性者と、区内に200人以上いる自宅療養者に1日1回の健康観察の連絡をとることで精いっぱい。クラスター(感染者集団)対策や濃厚接触者の調査など本来の業務すら十分できていないという。これ以上自宅療養者が増えると、1日1回の連絡もとれなくなる可能性もある。

 

 前田所長は「重症の人と重症化リスクのある人しか入院できないなら、中等症の人が置き去りになる。中等症の人はすでに濃厚な治療が必要なために入院しているのに、病床が足りないから中等症の人を入院させないというのは、論理的にはありえない」と話す。

 

 在宅ケアにかかわる団体でつくる日本在宅ケアアライアンスの新田國夫理事長は、

同じ重症度ならば「(7月に特例承認された)中和抗体薬を含め、入院と在宅で使える薬、治療法に差がないようにしてほしい」と望む。

 そのうえで、自宅療養者に健康観察をし、悪化すれば速やかな入院体制をとるには、「保健所と地域の医療者の連携が不可欠だ。だが地域ごとに対応は異なり、できていないところもある。医療の空白をつくらないよう速やかな連携が求められる」と言う。

「地域を知る開業医が保健所に入り、どの患者を入院させるかを判断、県などのコントロールセンターに伝えるしくみが望ましい」(後藤一也、市野塊、編集委員・辻外記子)

治っても後遺症? 新型コロナの恐ろしさ、新たな闘い

朝日新聞アピタルより抜粋

2020年7月18日

          新型コロナウイルス感染から2カ月後の続く症状

 

 新型コロナウイルスに感染後、治ったはずなのに、疲れや息苦しさなどの症状が続く人がいる。新しいウイルスのため、長期間の影響についてはわからないことが多いが、国内外で「後遺症ではないか」との報告が相次ぐ。厚生労働省は実態調査を、8月から始めることにした。

 

新型コロナウイルスの怖さは、知らない間に感染が広がるだけではなさそうです。治ったはずなのに、多くの人の体と心に症状が出ています。

 

退院後もだるい

 4月上旬に新型コロナウイルスに感染した千葉県の10代の男子学生は、発症から3カ月以上が過ぎた今も、熱や頭痛、だるさ、胸の痛みが残り、湿疹が不定期に出る。

 陽性とわかった後、病院のベッドに空きがなく、自宅で待機した。20日後に入院でき、約2週間後に退院した後はホテルや自宅で療養したが、不調が続き、6月に再入院した。今は退院して自宅にいるが、症状がつらくなると受診する。

 「陰性になったら2週間ぐらいで治るのかと思っていた。この状態がずっと続くのか不安になる」。秋に復学を目指すが、十分に体調が戻っているか、自信はないという。

 

 中国・武漢で原因不明のウイルス性肺炎が広がっていると報告されてから約7カ月。まだ新しい感染症のため長期的な影響は明らかではないが、後遺症の報告が少しずつあがっている。

 

#コロナ後遺症

 ツイッターでは「#コロナ後遺症」とハッシュタグを付け、断続的な熱の上昇やめまい、疲労、味覚や嗅覚(きゅうかく)の障害などを訴える投稿が複数ある。

 

イタリアの病院の医師らは7月、新型コロナのため入院し、その後、回復して退院した143人の9割近くに何らかの症状が続いていることを、米国医師会雑誌に報告した。

 初めに症状が出てから平均2カ月後の状況を聞いたところ、87%は疲れや呼吸困難など一つ以上の症状があった。最も多い症状は疲労で53%、呼吸困難が43%、関節痛が27%、胸痛が22%と続いた。

 

 

新型コロナ感染の後遺症で脳が10歳も老化する?

<新型コロナ感染症にかかった人の脳は、最高で10歳も老化し、高度な思考力が
 目に見えて減退する可能性があるという恐るべき研究結果が発表された>

2020年10月28日(水)17時55分

カシュミラ・ガンダー

 新型コロナウイルス感染症にかかった人は、脳が最高で10年も老化する可能性があるという研究結果が発表された。

この研究はイギリスで行われたもので、新型コロナウイルス感染症(未確認症例含む)から完治した8万4000人以上の元患者に対して、思考能力をテストした。研究結果は専門家の検討前に医学系論文を事前公開するサイト「medRxiv」に掲載されている。学術誌での発表に必要な厳格な査読プロセスを経ていないため、この結果は慎重に受けとめる必要がある。

研究の参加者は、いずれも新型コロナウイルスの感染が確認されたか、あるいは感染が疑われた経験があると答えた人々で、症状が続いた期間、重症度、基礎疾患の有無といった質問に答えた。また、問題解決能力、空間記憶力、注意力、感情の調節能力などを測定するテストを受けた。

思考力テストの結果は、比較対象のため、新型コロナに感染したことのない人々のテスト結果と比較された。すると、新型コロナ感染症の元患者は、非感染者よりも認知力テストの成績が悪いことがわかった

新型コロナと認知力低下の関連性は、重症者のほうが大きかったが、症状が軽かったケースでも関連があることは明らかだった。この研究では、呼吸障害のなかった患者は軽症と定義している。

 

重症者ほど思考力が低下

 この研究で明らかになったのは、高次の認知といわれる能力に、特に目立つ後遺症が見られることだ。

元患者の注意力、論理的思考力、特に口頭で論理的思考力を展開する能力について、研究論文の共同執筆者である英インペリアル・カレッジ・ロンドン脳科学部のアダム・ハンプシャーが本誌に語った。

 

「入院し、呼吸器の症状が深刻化して人工呼吸器をつけた20〜70歳の元患者の思考力は、平均で10歳年上の人のレベルにまで減退していた。認知障害との関連性が高い重要な予測因子は、呼吸器症状の重症度と感染の有無だけだった」とハンプシャーは本誌に語った。既往症の有無といった他の条件は、発見された傾向を説明する要素にならなかった」と、彼は言う。

 

今回の研究データは「新型コロナ感染が慢性的な認知力の低下という後遺症をもたらす可能性があることを示唆している」と、研究チームは述べている。また、新型コロナ感染症から回復した後で、脳卒中や免疫系の過剰反応および炎症などの合併症に起因する神経学的な問題が生じる可能性を示す研究が数多く行われている点も指摘した。

「これらの結果は、新型コロナ感染症を乗り越えた人々に起こりうる認知障害の原因をさらにくわしく研究する必要性を訴えるものだ」と、論文の執筆者らは書いている。

 

専門家からは、この研究結果は、新型コロナウイルスが思考力の問題を引き起こすことを証明していないという批判もある。

英エジンバラ大学のジョアンナ・ウォードロー教授(応用神経イメージング)は、「研究チームが新型コロナに感染する前の被験者の認知機能に関する情報を把握していなかったことから、研究成果は限定的だ」と述べた。「この研究で明らかになった問題も、短期的な現象かもしれない」、と彼女は言う。

英ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのデレク・ヒル教授(医学イメージング科学)は、この研究を「興味深いが、結論は出ていない研究」と評した。「新型コロナに感染したかどうかを被験者の自主申告にまかせているので、情報の信頼性が疑われる」、と彼は言い、コロナウイルス検査を受けて陽性が確定していたのは、元患者の「ごく一部」だけだったことを明かした。

ヒルはまた、たとえば脳のスキャンなどでウイルス感染が脳にどんな生物学的に影響を与えたかを調べていない点を指摘した。「アルツハイマー病の認知機能低下は、MRIスキャンによって特定できる脳の収縮に関連していることはよく知られている」と、ヒルは言う。

英エクセター大学の上級臨床講師デービッド・ストレインは、非感染者と比較して10年ほど老化した一部の新型コロナ感染症患者の脳の状態は、他のウイルスによる感染症から回復した患者の脳の状態よりも「はるかに悪かった」と述べている。

今回の研究では、参加者約8万4000人のうち、ウイルス検査で陽性が確定していたのはわずか361人であったため、研究結果は確定的とはいえない。

ハンプシャーによれば、感染が確認された参加者の数が少ないのは、研究が行われた時点で、ウイルス検査を受けたイギリス人がまだ少なかったからだという。「今も研究の参加者を募集している。新型コロナ感染者が参加したら、認知能力が本当に低下するかどうかを確認するため将来にわたって追跡する」

コロナ「脳細胞にまで侵入する」という新事実

遺伝的背景などから脳感染リスクが高い人も 

The New York Times 2020/09/17

 

 一部の感染者で新型コロナが脳細胞に侵入していることがわかった(写真:AP/アフロ)

 

 新型コロナウイルスは主に肺を標的にするが、ほかに腎臓、肝臓、血管も攻撃し、患者の約半数は頭痛、錯乱、せん妄(意識障害の一種)などの神経症状を訴えている。

 

 これは新型コロナが脳をも侵す可能性があることを示唆するものだ。

 

 そしてこのたび、新たな研究で、新型コロナが一部の感染者で脳細胞に侵入してこれを乗っ取り、自己複製している明確な証拠が示された。新型コロナはまた、周囲の酸素を吸い取って、近隣の脳細胞を死に追いやっているとみられる。

 

 どのようにして脳に侵入するのか、あるいはどれくらいの頻度で脳細胞の破壊を引き起こすのかはわかっていない。脳への感染はまれなようだが、一部の人は遺伝的背景、ウイルス量、その他の理由から脳感染リスクが高くなっている可能性がある。

「実際に脳に感染すると、死に至る可能性がある」と、同研究を主導したイエール大学の免疫学者、岩崎明子教授は話す。

 

脳細胞を窒息死させるステルス病原体

 研究成果は、9月9日にオンラインで公開されたばかり。正式な論文発表に向けた専門家の査読はまだ終わっていないが、研究は慎重かつ洗練されたもので、新型コロナが脳細胞に感染しうることがいくつかの手法で示されている、と複数の研究者は述べる。

 

これまで科学者は、脳の画像診断と患者の症状だけを手がかりに脳への影響を推測するほかなかった。「新型コロナが脳に感染する可能性があることはわかっていたが、それを実際に示す証拠は、正直それほど得られていなかった」と、イギリス国立神経学脳神経外科学病院のマイケル・ザンディ神経科医長は語る。「今回のデータによって、実際に脳感染が起こりうることを示す証拠が少し増えた形になる」。

ザンディ氏の研究チームは7月、COVID-19(新型コロナ感染症)患者の一部が重篤な神経学的合併症を発症し、中には神経損傷が起きる例もあるとの研究結果を発表している。

 

 岩崎氏のチームによる新研究では、脳への感染の証拠が3つの方法で積み上げられている。①新型コロナ感染症で死亡した人の脳組織の分析、②マウスモデルによる実験、そして③オルガノイドでの実験だ。オルガノイドとは、シャーレ内で脳の3次元構造を再現した脳細胞の塊である。

ジカウイルスなど、脳細胞に感染することがわかっている病原体はほかにも存在する。こうしたウイルスに感染すると大量の免疫細胞が損傷部位に集まり、感染した細胞を破壊することで脳を浄化しようとする。

新型コロナの動きは、これよりもはるかにつかみどころがない。脳細胞の機構を利用して自己複製するが、細胞を破壊することはしない。かわりに、近接する細胞から酸素を奪い、衰弱死させるのだ。

 

ニューロン間をつなぐシナプスの数が急減

 研究では、これに対し免疫反応が起こっていることを示す証拠を見つけることはできなかった。「静かな感染だ」と岩崎氏。「新型コロナは、回避メカニズムをたくさん持っている」

これらの知見は、新型コロナに感染したオルガノイドのほかの観察結果とも一致する、とカリフォルニア大学サンディエゴ校の神経学者アリソン・ムオトリ教授は述べる。同教授はジカウイルスの研究も行っている。

 

新型コロナは、ニューロン間をつなぐシナプスの数を急激に減少させるようだ。

 

「感染からわずか数日で、シナプスの数が急激に減少しているのを観察できる」とムオトリ氏は言う。「これが元どおりになるものなのかどうかは、まだわからない」。

新型コロナは、細胞表面にあるACE2と呼ばれるタンパク質を利用して細胞に感染する。

このタンパク質は全身に発現するが、とりわけ肺に多い。新型コロナでとくに肺が標的となるのは、このためだ。

 

先行研究では、タンパク質量の指標を根拠に、脳にはほとんどACE2がなく、感染する危険性は少ないと示唆されていた。しかし岩崎氏らがより詳細な研究を行ったところ、新型コロナは実際にこの経路で脳細胞に侵入できることがわかった。

岩崎氏によればACE2がニューロンで発現していること、そして細胞への侵入に必要であることは、かなり明白だ」。

 

 そこで岩崎氏のチームは、2群のマウスで対照実験を行った。片方はACE2受容体が脳だけに発現しているマウス、もう片方はACE2受容体が肺だけに発現しているマウスだ。これらのマウスを新型コロナウイルスにさらすと、脳に感染したマウスは急激に体重が減少して6日以内に死んだが、肺に感染したマウスは違った。

マウスの研究結果である点は割り引かねばならない。が、それでも、これは脳感染が呼吸器感染以上に致命的となる可能性のあることを示している、と岩崎氏は話す。

 

肺の炎症が脳卒中につながるケースも

 新型コロナは、嗅覚を司る嗅球、眼、さらには血流を介して脳に侵入する可能性がある。実際にどの経路で侵入しているかは明らかでなく、また感染者に見られる症状を説明できるほど頻繁に侵入が起こっているのかどうかもわかっていない。

「科学的データが臨床的証拠に先行している事例だと思う」とムオトリ氏。

 

脳感染がどれほどの頻度で起きるのか、そして軽症者や、多くの神経症状を呈することの多い長期患者(「長距離輸送車」と呼ばれる)でも起きるものなのかどうかを推定するには、多くの検視標本を分析する必要がある。

 

新型コロナ患者の40~60%は神経症状や精神症状を経験すると、ジョンズ・ホプキンス大学の神経科医ロバート・スティーブンズ氏は言う。しかし、こうした症状のすべてが、新型コロナウイルスの脳細胞への侵入に由来するとは限らず、全身の広汎な炎症の結果として引き起こされている可能性もある。

 

例えば、肺の炎症によって血液の粘着性を高める分子が遊離され、血管を詰まらせて脳卒中につながることもある。「そうした症状は、脳細胞自体が感染していなくても起きる」とザンディ氏は指摘する。

「しかし、一部の感染者では、感染した脳細胞のために血中酸素濃度が低下することが脳卒中の引き金になっている可能性がある」とザンディ氏は付け加える。

患者のタイプが異なれば、病態も異なる可能性がある。(肺の炎症と脳感染の)両方が組み合わさることも十分に考えられる」。

脳の中に霧が立ちこめたように、頭がぼーっとなるブレインフォグ、せん妄といった一部の認知症状は、鎮静剤を用いたり人工呼吸器を装着したりしている患者では把握しづらくなる。

医師は可能であれば1日に1回鎮静剤の投与量を計画的に減らして患者の状態を評価すべきだと、スティーブンズ氏は話す。

(執筆:Apoorva Mandavilli記者)

コロナ「突然重症化した人」の驚くべき共通点

 10日間救急治療室で患者を診た医師の見解

  

患者が「息苦しさ」を感じて病院を訪れる時には、肺炎がかなり進行している可能性がある。その理由とは

(写真:REUTERS/Giorgos Moutafis )    

 

 私は30年間救急医療に携わっている。1994年には、挿管法を指導する画像システムを考案した。呼吸を助けるための管を挿入するプロセスを指導するものだ。これを契機に私は挿管法のリサーチを行うようになり、その後、過去20年は世界各地の医師たちに向けて気管処置の講座を行っている。

3月末、新型コロナウイルス感染患者がニューヨークの病院にあふれ返るようになり、ベルビュー病院で10日間、ボランティアで支援にあたった。この間私は、このウイルスによって致命的となる肺炎の早期発見ができていないこと、そして患者を、人工呼吸器を使わずに回復させるための方法がもっとあるはずだと考えるようになった。

 

肺炎症状が出ているのに、息切れ感じない

 ニューハンプシャー州の自宅からニューヨークまでの長距離運転中、友人のニック・カプトに連絡をした。彼はブロンクスに勤務する救急医で、すでに新型コロナ騒ぎの渦中で奮闘していた。私は今後自分が直面するだろう事態、安全を保つ方法、そしてこの疾患に対する彼の見解を知りたかった。

「リック、これはいまだかつて誰も見たことのないものだぞ」と彼は言った。

その通りだった。新型コロナによる肺炎はニューヨーク市内の医療システムに重大な影響を及ぼしている。通常、救急治療室(ER)に運ばれる患者は、 心臓麻痺や脳卒中といった重篤な状態から、軽度の裂傷、中毒症状、整形外科系のケガ、偏頭痛といった軽症までさまざまだ。

ところが、ベルビュー病院で10日間ボランティアをした期間中、 ERの患者はほとんどすべて新型コロナによる肺炎患者だったのだ。私はシフト開始からわずか1時間の間に、2人の患者に挿管していた。

 呼吸器系の症状がない患者でも新型コロナ性の肺炎を患っていた。肩を刺された患者が来て、傷が肺に届いていないかを確認するためにレントゲンを撮った際、彼も肺炎だった。転倒してケガをしたということでCTスキャンを撮った患者たちにも偶然、肺炎が見つかった。原因不明で失神した高齢者、多くの糖尿病患者も新型コロナに感染していた。

そして次の事実が私たちを心底驚かせた。こうした患者たちの胸のレントゲンは、肺炎が進んでいることを示しており、飽和酸素レベルも正常以下であるにもかかわらず、ほとんどが呼吸上の問題を訴えていなかったのだ。

 

いったいこれはどういうことなのだろうか。

 

私たちは、新型コロナ肺炎が、最初に「サイレント(無症候性)低酸素症」という酸素欠乏を引き起こすことを認識し始めた。陰湿で検出しにくい性質から「サイレント」と呼ばれている。

 

肺炎では患者は通常、胸部の不快感や呼吸時の痛みなどの呼吸障害を発症する。

しかし、新型コロナ肺炎の場合、当初患者は酸素量が低下しても、息切れを感じない

しかしその間、驚くほど酸素濃度が低下し、中等度から重度の肺炎(胸部X線写真で見られる)になっていく。

正常な酸素飽和度は94%から100%だが、私が見た患者の中には、酸素飽和度が50%にまで低下していた例もある。

 

来院時点ではすでに重体になっていることも

 驚いたことに、私が見た患者のほとんどは、1週間ほど前から発熱、咳、胃もたれ、倦怠感などの症状が出ていたが、来院するまで息切れは感じていなかった。肺炎は明らかに何日も続いており、来院した時はすでに重体になっていることが多い。

救急科では、さまざまな理由で重症患者に呼吸管を挿入する。しかし、私の30年の経験では、緊急挿管を必要とする患者のほとんどは、ショック状態にあるか、精神的に混乱しているか、あるいは、息をするためにうなり声を上げるかしている。急性低酸素症のために挿管を必要とする患者は、多くの場合、意識を失っていたり、呼吸をするためにあらゆる筋肉を使っている。だが、

 

新型コロナ肺炎の症例は、他の肺炎とまったく違う。

 

 私が診た新型コロナ肺炎患者の大多数は、トリアージ時の酸素飽和度が著しく低く、一見通常生活を送れないような状態なのに、挿管の準備をする時でさえスマホをいじっていた。呼吸は速いし、胸部レントゲンでは危険なほど酸素濃度が低く、ひどい肺炎であったにもかかわらず、見た目には比較的最小限の苦痛を抱えているだけだったのだ。

なぜそうなるのか、私たちはようやく理解し始めたばかりだ。

コロナウイルスは界面活性剤物質(サーファクタント)を産生する肺細胞を攻撃するこの物質のおかげで、肺の中の肺胞は呼吸の合間に膨らんだ状態を維持できる。サーファクタントは、肺が正常に機能する上で重要な物質だ。

 

 新型コロナ肺炎の炎症が起こり始めると、肺胞が虚脱し、酸素レベルが低下する。それでも当初は、肺はこの状態に適応し、硬くなることも、液体を貯めることもない。この状態であれば、患者は二酸化炭素を排出できる。二酸化炭素が蓄積されなければ、患者は息切れを感じない。

患者は血中の酸素が低下するにつれ、より速く、深く呼吸をするようになる。無自覚に、だ。この無症候性低酸素症とそれに対する患者の生理的反応によって、炎症はいっそう進み、より多くの肺胞が虚脱する。ついには肺炎が悪化して、酸素レベルが急激に低下する。患者が激しく呼吸することで、いっそう肺を傷つけているわけだ。

 

 患者の2割はその後、より危険性の高い肺損傷段階へと進展する。液体がたまり、肺は硬くなる。二酸化炭素レベルが上昇し、患者は急性呼吸不全を発症する。

目立って呼吸がきつくなり、危険なほどの低酸素レベルで病院にやってきたときにはもう、最終的に人工呼吸器が必要となることが多い。

息切れを感じることなく突然死亡する新型コロナ患者の症例は、無症候性低酸素症が急速に呼吸不全に進展する事態で説明できる(ただし、新型コロナ患者の大半は症状が比較的軽度で、治療なしで、1、2週間で回復しているようだ)。

 

 救急で訪れる患者の肺損傷が驚くほど重篤なため、このパンデミックは医療体制に大きな負荷をかけている。新型コロナによる死亡は、肺機能の悪化によるものが圧倒的に多い。

 

 また、肺炎が十分進行するまで病院に行かない患者があまりに多いため、多くの人が最終的に人工呼吸器につながれ、これが機器不足につながっている。そして、いったん人工呼吸器につながれたら、多くの人が死んでいく。

 

低酸素症を早めに検知するには

 人工呼吸器の使用を避けることは、患者と医療システムの双方にとって非常に有益である。人工呼吸器を装着した患者のためには、膨大な資源を必要とする。通気口をつけた患者に対しては、ベントに抵抗したり、誤って呼吸管を取り外したりしないように、複数の鎮静剤が必要である。

患者は静脈および動脈経路、さらにIV薬およびIVポンプを必要とする。また、気管内チューブに加えて、胃および膀胱にもチューブを挿入する。チームのメンバーは1日2回、各患者の肺機能を改善させるため、腹部を下に、さらに背中を下にして寝かせながら、動かすことが求められる。

新型コロナ肺炎を患う患者をより多く迅速に特定し、それらの患者をより効果的に治療するひとつの方法がある。その方法では、病院または医院でのコロナウイルス検査を待つ必要はない。普及型の医療器具を使って無症候性の低酸素症を早期に発見することが求められる。

その器具とは「パルスオキシメーター」であり、ほとんどの薬局で処方箋なしに購入できる。

パルスオキシメーターは、体温計と同様、複雑なものではない。この小さな機器はボタン1つで起動する。利用者が指先に装着すると数秒で、酸素飽和度と脈拍数を表す2つの数字が表示される。パルスオキシメーターは、酸素化障害および高心拍数を検知する器具として非常に信頼度が高い。

パルスオキシメーターは、私が知る2人の救急医の命を救うのに役立った。早い段階で治療の必要性を警告したのだ。2人とも自分の酸素レベルが下がっていることに気づき、病院に行って症状回復へと至った(1人はより長く、高度な治療が必要だったが)。低酸素症の発見、早期治療、詳細なモニタリングは、イギリスのボリス・ジョンソン首相の治療にも役立ったようだ。

 

自分で機器を使ってチェックするにせよ、クリニックや診療所で測ってもらうにせよ、パルスオキシメーターを活用したスクリーニングが広く普及することにより、新型コロナ肺炎に関連した呼吸障害を早期に発見できるシステムが確立できる。

パルスオキシメーターを自宅で使う人は誤って測定した数値を誤解し、不必要にERに来訪することを避けるために、使用にあたってはかかりつけ医に相談したほうがいいだろう。慢性の肺疾患を患っていることで、新型コロナとは関係なく、数値が比較的低くなる人も一部いるかもしれない。

 

検査で無症状になった人は2週間測るべき

新型コロナウイルスの検査で陽性になったすべての患者は、血中酸素飽和度のチェックを2週間にわたりするべきだ。新型コロナ肺炎は通常、この2週間のうちに発症する。

咳、倦怠感、発熱のある人たちについても、たとえウイルス検査を受けていなくても、あるいは検査結果が陰性だったとしても、血中酸素飽和度のモニタリングを受けるべきだ。PCR検査の精度は約70%しかないからだ。アメリカ人の大部分は、このことを知らない。

挿管や人工呼吸器に頼ることを避けるために私たちができることはほかにもある。患者の体位変換(患者をうつ伏せや横に寝かせること)を行うことにより、新型コロナ肺炎で最も影響を受ける下肺と後肺が開くことができる。

酸素投与と体位変換は患者の呼吸を助け、多くの場合、病気の進行を防ぐように見受けられた。カプトによる予備研究では、新型コロナ肺炎が進行した患者4人のうち3人が、この戦略で対処した直後の24時間内に人工呼吸器を必要としなくなったとのことだ。

 

現在までに、新型コロナによるアメリカ内での死者数は4万600人を超え、ニューヨーク州だけで1万人を超えている。パルスオキシメーターの正確性は100%ではなく、また万能薬でもない。今後も、避けられない死や最悪な結果がなくなることはないだろう。

 

なぜ特定の患者が重症化するのか、なぜ多臓器不全を発症する患者がいるのか、私たちはまだ完全には理解していない。すでに慢性疾患で衰弱している多くの高齢者や基礎的な肺疾患のある人々には、どんなに積極的な治療を行ってもそれが及ばない場合もある。

 

しかし、私たちは現在より上手く対処することができる。現在、多くの緊急治療室がこの病気に圧倒されているか、あるいはその状態に陥るまで秒読みの状況にある。無症候性の低酸素症をスクリーニングすることにより、新型コロナ肺炎の初期段階を早期に特定して治療するためのリソースを提供する必要がある。

ウイルスを追跡するのではなく、ウイルスより先回りするのは今だ。

(筆者のRichard Levitan氏は緊急医療医)